南先輩の声を聴いてると優しい気持ちになる。そう感じたんは今日が初めてやない。南先輩の笑顔をただ守りたくて。南先輩が笑っててくれるなら、俺は幸せやった。それがいつしか贅沢になって。忘れようとすればするほど好きになる。そんな苦しいことも南先輩を好きになって覚えた。ほんま南先輩には驚かされてばっかりや。



『財前くんみたいに自分らしく生きてみたかった。格好悪くても。私は私を信じてみたかった』
「俺、南先輩のこと」
『白石くんのこと、本当に好きだったはずなのに。振られても涙すら出なかったんだよ』
「そんな…」
『財前のせい、なんだからね。責任とってくれるの?』



どんな時でも、俺には夢があった。その夢を今、南先輩と共有できてる。先輩は先輩で、自分と向き合って。自分らしい決着をつけようとしてる。さっきよりも風が冷たく感じる。体が熱くなってる証拠か。





『大好き!』



南先輩は顔を真っ赤にして笑ってくれた。瞳はしっかり俺を捕らえてて、視線もそらされへん。前より。昨日より南先輩は強くなってる。後輩の俺でもそれはわかった。



『私、財前くんが思ってるような人じゃないかもしれない』
「それはお互いさま」



南先輩はフェンスにもたれ掛かるとため息を漏らした。嫌なため息やなくて、一息ついたって表現のほうが正しいかもしれへん。



『でも私ね、知ってたんだ。財前くんの気持ち』
「…え?」
『いつの間にか財前くんの視線が心地好くなってた。だから私、財前くんの気持ちを利用して』
「そんなん利用って言わへんでしょ。俺は南先輩と話したりできてほんま嬉しかった。利用か利用やないかは俺が決めることです」
『…財前くん』



今だけ泣いてもいい?南先輩がそう言った。頷くと先輩は俺の胸にしがみついて小さく震えて泣いた。今の俺には震える肩を抱きしめるのが精一杯。
結局俺はどんなときでも南先輩が好きで。それはこれからも変わることはない。元気を与えてくれる先輩の笑顔が俺のもんになった。そう思うと余計に心拍数が上がってきた。先輩に今にも爆発しそうな心臓の音を聴かれたくなくて息を殺しながら浅く深呼吸してみる。

まだ南先輩と両想いになれたって実感がない。思った通り落ち着くことがない心拍数。やっぱり恋って楽やない。南先輩を腕の中に閉じ込めながらそう思った。