式はあっちゅー間に過ぎてった。校長の長い話も気が付けば終わってたし。市長とやらからの祝電も、卒業証書の授与も。何もかもが一瞬で終わったみたいやった。

中庭では卒業生が在校生から花束もらってたり、卒業生同士で写真撮り合ってたり。見てる俺まで切なくなった。南先輩の姿を探しながらキョロキョロしてみたけど見つからんかった。わざとため息をついてみると余計切なくなった。



俺はこれから南先輩がおらん人生に向かう。俺ん中の南先輩は過去の人になって、いつしか思い出に変わって。そんでいつかは…。



「忘れてまうんやろ、な」



もっと強くなれば忘れずにいられる?意志がぼやけてくる。強くなりたい。先輩を忘れたくない。
視界の遠くに南先輩を見付けた。後ろ姿が違う人に見えたような気がした。振り返りもしないで、きっと先輩は消えてく。挨拶しようかと一瞬思った。でも、恋の終止符くらい自分で打ちたい。つらくても、後になればきっと美しく思えるやろうから。

屋上への階段をひとり上る。心地好く風に当たろ思たらやっぱ屋上や。重いドアを押して開けると、意外に誰もおらんかった。



「…はぁ」


誰かおってくれたほうが良かったかもしれへん。そしたら。そしたら涙なんか流さんですんだかもしれへんのに。歯止めがきかんくなったかのように涙は流れ続ける。拭うことすらせんと、ひたすら歯を食いしばった。










『財前…くん』





好きやから。もう追いかけへんって決めたのに。涙で滲んで南先輩の姿がよく見えへん。ドアがしまる音がした。

恋が終わるとき。今、先輩と屋上でふたり。