あっとゆう間に時は流れ、もう3月を迎えてた。
あれから俺は南先輩と普通に話すどころか、寧ろ前より仲良くなってた。先輩はよく2年に遊びにきてくれたり、メールくれたり。白石部長のことには触れへんかったけど、俺にはそれがよかったんかもしれへん。

もう、南先輩が卒業しても。後悔は残らへん。

3年になったら次第にきっと思い出に変わって、でもたまに思い出したりして。そんでいつしか憧れの人に変わったりして。南先輩の卒業式まであと一週間。覚悟はできてる。はじめは辛いと思うけど、その辛さを受け入れる準備もできてる。








パソコンで遊んでたら携帯が振動した。メールやと思て無視したものの、振動が長い。こりゃ電話やな。開いた携帯のディスプレイには南先輩の文字。慌てて通話ボタンを押す。



「はっ、はい」
『南です。夜遅くにごめんね』
「いえ」



何してたの?って聞かれたから、素直にパソコンしてました。って答えた。ようわからんけど財前くんらしいねって笑われた。



『パソコンは肝心なこと、教えてくれないぞ』
「はぁ」
『なんてね。それにしてもさ。私、来週には卒業なんだよね』



南先輩も実感が湧かへんねやろう。それは俺も同じ。先輩とこうしてられんのが心地よくて。ついいつまでもこうしてられるって体が思ってしもてる。



『私ね。白石くんに告白しようと思うの』
「いいやないですか。頑張ってくださいね」



胸の鼓動が速くなってんのに気付く。振られるのは確実なんだけど。南先輩はそう付け足した。振られようが振られまいが、先輩が俺んとこにきてくれることはない。やから俺には関係ない話。のはずやのに。
頑張れ先輩。って素直に思えた気がした。開き直りでもなんでもない。南先輩が幸せなら、俺もきっと幸せやから。



『優しいね。財前くん』
「南先輩には言われたないっすわ」
『私が優しいなら。それは財前くんのおかげ。財前くんが、私を優しい人にしてくれてるんだよ』



涙が出そうになった。諦めるって決めたけど、忘れんくてもいいですか?この言葉が喉まで出かかった。グッと飲み込んで堪える。南先輩はありがとうって言った。
礼を言わなあかんのは俺やのに。南先輩のおかげで毎日楽しかったですって。なんでこんな言葉だけ言われへんねやろ。気の利いた言葉、一個も言えてない。頑張れなんか誰でも言える。



『…それだけ伝えたかったの。じゃあ夜遅くごめんね』
「はい。おやすみなさい」
『おやすみ。財前くん』



訳もないのに声をあげて泣きたくなった。先輩。やっぱり離れたくない。南先輩が好きや。悲しいくらいに。
電話を切ったんは俺が先。おやすみなさいって挨拶して切ったのに。南先輩との通信が切れたんが苦しかった。もう思い出ごと流すしかないんかな。そんなことできたらどんだけ楽か。気が付いたら涙が頬を伝ってた。