無理に強がるわけやないけど。南先輩に想いを伝えてからというもの、心がスッとして軽くなった。忘れることなんかできひん。ありきたりな片想い。ありきたりな失恋。すべてを抱えて、新しい自分にまた会える。



「財前!」
「白石部長」



中庭で白石部長に会った。南先輩との件のあとに部長に会うのは初めて。思ったより普通や。もっと嫉妬にまみれてイライラするもんやとばっかり思てた。
部長には、最近変わったなって言われた。褒めてくれてるらしい。棘がなくなったって、丸くなったって言われた。



「これも南ちゃんのおかげやな」
「なんで南先輩なんすか」
「南ちゃんな、最近財前の話よぅすんねん。優しいってさ」
「…気持ち悪っ」



嫌な感じはせんかった。部長の言い方は嫌味もなくて。って、これが変わったて言われるポイントなんかな。受け止めかたが変わったかもしれへん。



「優しいとか部長には言われたないっすわ」
「可愛くないやっちゃなー。素直に褒められときゃいいものを」
「はいはい」
「それはそうと。財前。お前、南ちゃんとどうなん?」



ニヤニヤしとる部長に苛立ちを覚え、少し睨みつけてみる。もし南先輩がこんなん聞いたら。絶対あの先輩は傷付く。傷付きながら、きっと笑う。



「どうもこうもないです」
「嘘つけやー。好きなんやろ。白石先輩の目はごまかされへんで」
「ほんま。やめてください」
「水臭い奴やなー。ちょっとくらい教えてくれても」



左手に衝撃が走る。気が付いときには部長の頬を殴ってた。
悔しかった。南先輩の想いを踏みにじられたみたいで。南先輩がどんな想いで白石部長を見つめてきたかと思うと、感情的になってまう。俺のことは何て言ってくれても構わへん。でも先輩だけは。南先輩のことだけは許さへん。



「南先輩の気持ちも知らんと…。あほ」



不愉快なまま中庭を後にする。南先輩。俺、南先輩と出会えたときのままでおれてるかな。好きやから、追わへんって決めた。





「わかってないんはお前やろ…。南ちゃんの心を動かしとんは何処のどいつやねん」





部長の声は俺に届かへん。悩んで、泣いて。いつか南先輩への想いも薄れてくんかな。そん時の俺はそんなこと考えて、空を眺め、ひとり虚しくなってた。ごめんな、南先輩。俺、なんにもでけへん。