ぼーっと過ごすときって、決まって南先輩のこと考えてる。苦しくなりそうやから外に出よかと思ったけど、あてがなさすぎる。俺の世界は、こんなにも南先輩でいっぱいやのに。南先輩の世界に俺はおらへん。そんなこと考えてたら携帯が振動した。
メールや。携帯を開いてみると、新着メールが1件。南先輩から。慌ててメールを開くと"公園で待ってる"とだけ書かれてた。

もう先輩が公園におるかも。南先輩が公園で待ってるかと思うと、いてもたってもおれんくなった。家を飛び出して公園へ走る。無我夢中で走った。



「南先輩!」



先輩の姿を見付けては叫ぶと、先輩はいつものように笑った。肩で息してると缶コーヒーを差し出された。受け取って一気に飲み干す。思ったより苦くて、喉がギューってなった。



「…にが」
『あはは、財前くんは子どもだなあ』
「うるさいっすわ」
『財前くんなら走ってきてくれると思ってたよ。ありがと』



優しいもん。南先輩はそう付け足すと、俺の頭を撫でた。また。またそうやって俺の世界を先輩で埋めてく。苦しい、南先輩。俺が駄目になる。先輩の恋を影ながら応援するって決めたのに。嘘つきになってまう。



「…あほやわ、南先輩」
『む。なんだと』
「俺、南先輩のこと。ずっと好きやったんです」



ちがう世界がはじける。もう後戻りはでけへん。ほんま、南先輩に関わると俺までトラブルばっかり。違う俺になったみたいや。先輩のおかげで明るく装って生きることも覚えた。南先輩がおるから、今の俺がおる。



「…先輩」
『は、はいっ』
「夢を捨てるのが大人なら、俺は大人になんかなりたくありません」
『財前、くん』
「やから。白石部長のこと、諦めんといてください。南先輩は、南先輩の信じた人を、ずっと好きでおってください」



南先輩の目から涙が零れる。あーあ。やっぱり困らせてしもたか。でも、先輩があんまり優しいから。輝く南先輩の涙が俺の心を軽くした。

平気や。嘘を心に叩き込む。人の心は過剰で嘘をつく。俺なら大丈夫。手探りで明日を掴めるから。