![]() 「財前」 「ん」 「呼んでるよ。南先輩」 クラスメイトが指した先には南先輩がおった。教室の入口から顔を覗かしてた。校内ですれ違っても見んようにしてたのに。忘れようとしてんのに。なんでこの先輩は。 『ういっす!』 「はい。で、何すか」 『え、えっ…と。い、いい天気だね!』 「用件」 南先輩はお茶を濁すも俺にはそんな手通じひん。単純に考えたらええんや。出会う前に戻ったと思たら。俺は南先輩を知らん。笑顔なんか、知らへん。やのになんでこんな辛いねん。 「そんな顔、せんといてください」 やっぱり無理やった。俺には南先輩の笑顔を。大好きな南先輩の笑顔を奪うなんてことでけへん。ましてや、俺のせいで。 「南先輩は笑ってたらええ」 『でも』 「先輩が好きなんは俺やないでしょ。勘違いされてからじゃ遅いですよ」 『それは…』 「ほら、早く戻って戻って!」 南先輩は何か言いたそうにしながら戻っていった。惨めやった。でも皮肉なことに、どこかホッとした。これで南先輩は笑ってくれるんちゃうか。 遠くから眺めてるだけでもいい。南先輩が卒業するまで。先輩の中学生活の最後まで、笑っててくれるなら。今の俺にとって、これ以上にない幸せや。 先輩ごめんな。今、俺の気持ち伝えても、きっと先輩を困らせるだけやから。先輩に笑えってゆっときながら、俺は多分酷い顔をしてる。突き放したんは、俺やのに。 |