時が経てば多少は楽になる。そう簡単に考えてた。でも実際はそんなことこれっぽっちもなかった。1ヶ月たった今も南先輩のこと忘れられてない。傷付いた心もいつしか慣れて感覚すらなくなった。まるで生きてる心地すらない。大袈裟すぎるけど、俺にはそんくらいの言葉がちょうどよかった。



「財前」
「ん」
「呼んでるよ。南先輩」



クラスメイトが指した先には南先輩がおった。教室の入口から顔を覗かしてた。校内ですれ違っても見んようにしてたのに。忘れようとしてんのに。なんでこの先輩は。



『ういっす!』
「はい。で、何すか」
『え、えっ…と。い、いい天気だね!』
「用件」



南先輩はお茶を濁すも俺にはそんな手通じひん。単純に考えたらええんや。出会う前に戻ったと思たら。俺は南先輩を知らん。笑顔なんか、知らへん。やのになんでこんな辛いねん。



「そんな顔、せんといてください」



やっぱり無理やった。俺には南先輩の笑顔を。大好きな南先輩の笑顔を奪うなんてことでけへん。ましてや、俺のせいで。



「南先輩は笑ってたらええ」
『でも』
「先輩が好きなんは俺やないでしょ。勘違いされてからじゃ遅いですよ」
『それは…』
「ほら、早く戻って戻って!」



南先輩は何か言いたそうにしながら戻っていった。惨めやった。でも皮肉なことに、どこかホッとした。これで南先輩は笑ってくれるんちゃうか。
遠くから眺めてるだけでもいい。南先輩が卒業するまで。先輩の中学生活の最後まで、笑っててくれるなら。今の俺にとって、これ以上にない幸せや。


先輩ごめんな。今、俺の気持ち伝えても、きっと先輩を困らせるだけやから。先輩に笑えってゆっときながら、俺は多分酷い顔をしてる。突き放したんは、俺やのに。