今夜は時折雨が降る。
夕方のテレビが言ってた。幸せなニュースだな。何かある訳じゃないけどそう思った。最近の雨は好き。なんだか心が安らぐ。
ニュースは本当に当たった。21時を過ぎた頃に雨の音がした。何気なく外に出る。少し歩こうか。雨の町をあてもなく歩くのも悪くない。
駅前では色とりどりの傘が歩いている。向かい側から黄緑の傘が歩いてきた。綺麗な黄緑だな。雨が白やオレンジのライトに照らされてなんだか暖かい。
「あれ、名前やん」
黄緑の傘の正体はクラスメイトでもあり彼氏でもある白石くんだった。ほら。やっぱり雨っていい。ぱしゃぱしゃと私の方に駆け寄ってくる白石くんの足音が心地好い。
「何してんの?」
『散歩』
「うそん。なんで俺に言ってくれへんの。付きおうたのに」
ふて腐れたような表情を作る白石くんが可愛くて笑ってしまった。私のごめん。という言葉に反応してから白石くんは私の真横に立った。
「ではお送り致します。名前姫」
やだ。と言ったら私の家まで近いルートをわざと外してくれた。ほんならちょっと遠回りして帰ろか。白石くんの言葉を合図に歩きだした。
「なんでこんな雨ん中散歩しとったん?」
『あてもなく歩くのっていいじゃない。それに、ひとりのときこそ』
白石くんを感じられるから。
さすがの王子様も照れたみたい。顔をほんのり赤くして俯きがちになってしまった。なんだかしてやったりな気持ちになる。なんちゃって。
『でもふたりでも。こうやって寄り添いながら歩くのも、なんだかとっても素敵』
今わかったんだけど私はこうして白石くんを想っている時間が好きみたい。つまり。
『晴れてても雨が降ってても。私は白石くんが好きなんだよ』
「そんなん俺もやし」
『違うの。恋する乙女の気持ちはそう簡単には教えてあげない』
「なんじゃそりゃ。姫さんのゆうことはよぉわからんなあ」
夢みたいだけど夢じゃない。白石くんに恋するまでは恋なんて大したことないって思ってたのに。こんなにも人って変わるんだ。ひとつふたつ、そして何もかもが変わった。
傘に落ちる幾千の雨の粒。雨の贈り物が降り注ぐ。あ、もうすぐ家に着いちゃう。
「雨もたまには悪ないな」
ほら。白石くんにも伝わった。恋をすれば日々の贈り物でさえ愛おしく思える。少し乙女心を理解してもらえたかな。案外単純でしょ。
降っても晴れても
(雨でも晴れでも白石くんを想えばまた日々は煌めいていく)
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