『ちょっと、やめてください!』



いつもの通学路に、私の声が響き渡る。知らない男子学生たちに囲まれて遊ぼうよなどと声を掛けられては、腕を掴まれた。怖かった。でもそれより、どうしたらいいのかと頭では冷静に考えていた。



「いーじゃん、ちょっとでいいから遊んでよ」
「俺らこの辺よく知らないから案内してよ、ね?」



嫌です。そう拒んでもやはり腕を離してくれない。こんなことなら、ひとりで下校なんてするんじゃなかった。たまに独りになりたいと思ったらこうだ。ついてない。



『ほ、ほんとにやめてください』
「ね、行こ行こ」



「や、やあ。待ったかな?」
『えっ?』



男子学生たちから視線から外すと、向けた先の視界には同じクラスの白石くんの姿が。助けてくれたんだ。知らない男子生徒が私の腕を離した。



「な、なんだ。イケメン彼氏付きかよ」
「ちっ。行こーぜ」



私はというと呆気にとられて、男子生徒たちの後ろ姿をぽかんと見送るしかできないでいた。我にかえったのは白石くんが大丈夫?と声を掛けてくれた時。そうだ、私は白石くんのお陰で助かったんだ。



『ありがとう。助けてくれて…』
「ううん。変な男たちやったな」
『うん…。それじゃ』



白石くんから背を向けると、苗字さんと後ろから名前を呼ばれた。まだ何か用なのかな。振り返ると、心なしか顔を赤らめている白石くんが何か言いたそうだった。



『…なにか?』
「あ…。えっと、その。お、俺でよかったら…」
『?』
「…苗字さんを送らしてくれへん?」



不思議と自然に頷けた。あまり口数が多い方でも、人付き合いが得意な訳でもない。そんな私でも、この人は信じてもいい気がした。白石くんの目が、真っ直ぐで綺麗だったからかもしれない。
よろしくお願いします。と軽く礼をすると、白石くんの笑顔が夕焼けに包まれていた。








『ごめんね。上手く話せなくて』
「い、いや全然!大丈夫大丈夫!」



こうしてまた何度めかの沈黙がのし掛かる。もっと上手く話せたらよかったのに。同じクラスなんだから、担任の話とかもうすぐ行われる体育大会の話とか。共通の友だちがいないからか、教室でもまともに話したことのない白石くんと私からコミュニケーションをとろうとすることがまた無謀だったんだろうか。



『あ、そこの角左に曲がったら家だよ』

沈黙が続いたと言えども、すぐに家についてしまった。沈黙を苦ともしない私には早かったんだろうが、さぞかし白石くんには嫌な思いをさせてしまっただろう。協調性があればと、ほんの少しだけ自分の性格を恨めしく思ってしまった。



「ほ、ほんなら。俺はこれで」
『何から何まで、ありがとう』



そうして家から離れていく白石くんの後ろ姿を見送ってると、急に白石くんが立ち止まり、振り返った。その白石くんの顔は、さっき見てたときより赤くて、なんだか不思議な気持ちになった。



「お、俺なんかでよかったら」
『は、はい』
「また、送る…けど」



みるみるうちに赤くなっていく白石くんの顔。気が付けば私も顔が少し熱くなっていた。この気持ちはなんだろう。白石くんとまたこうして帰ってみると気持ちの正体がわかるかな。白石くんはどうして、あんなに顔が赤いんだろう。私と一緒で、緊張してるのは隣を歩いている時から気付いていたけど。



『よ、よろしく…お願い、します』



まだまだ私には理解できない気持ちがいっぱいだ。心の中では独りになりたいと強がっていたものの、やっぱり誰かと一緒にいるのも悪くないと思ったり。ほんと世の中、わかんないことだらけだ。この胸のワクワクも、ドキドキも。

ほんとはね

(送ってくれて、うれしかった)

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