なにより暑かった。さっきまで悩んでた金欠だとかどうでもよくなってた。ただただ暑い。昼前にあった体育の授業がプールやったにも関わらずこの体感温度の高さ。節約の為に友達と遊んで帰るのも諦めたというのに、帰り道に立ち塞がるコンビニという強敵に勝つことが出来ず、今季初めてのアイスの買い食いをする羽目になった。それも一人で。



『ふぅ…。あっつー』



こんなことなら友達と遊んだ方が賢かったかな。そう思ったのも束の間。コンビニの前で、たった今買った一袋に二本も入ってるチューブ型のアイスの袋を開けたら、そんな一瞬の後悔も吹き飛んだ。もう一本はどうしようかなんて考える暇もなく口を切り、かぶり付くようにアイスを吸った。まるで天国だ。暑い日差しの中で、アイスと言うよりシャーベットに近いであろうものを口の中いっぱいに広げる。ああ。私、今すごく夏を満喫してる。そんな気分。



「お、うまそうなん食べてる」



この声は。慌てて声のした左を向くと、白石くんがこっちを見ていた。白石くんとコンビニで会えるなんて。嬉しさと同時に、アイスにがっついてる自分を見られた羞恥が私を脅かす。コンビニに入ろうとしてる白石くんが私の食べているアイスを指差した。



「うまいよな、それ」
『そだね。白石くんは買い物?』
「うん。あんまり暑いからさ。アイスでも買いに寄ろかと」
『あ、私もう一本あるよ。よかったら食べる?』



ほんま?ととびきりの笑顔を見せてくれる白石くん。その笑顔が眩しすぎて、暑さなんてぶっ飛びそうだ。私にとってはアイスなんかよりご馳走だ。緊張してアイスの味がわからなくなってる。



「ほんなら。はい、50円」
『いいよ、そんな』
「俺かて半分もらうねんからさ、ほら。アイスも半分こやねんからお金も半分こ」



やさしい…。と言うよりかわいい。おまけにかっこよさも兼ね備えてるなんてさすが白石くん。学校中の女の子を虜にしているだけはある。50円玉を受け取る時に触れた指が熱い。これは夏の暑さのせいじゃないことくらい、さっきまで暑さに負けていた私にだってわかる。



「冷たいなー」



なんて幸せなんだろう。教室ではあまり話すこともないのに、今こうして白石くんと自然に話せてること。好きな人と暑いねって言いながらアイスを分け合えるなんて私の人生の一大イベントだ。



「苗字さん」
『ん?』
「俺さ。苗字さんに恋、してる」



白石くんの笑顔がきらめいて、恋がはじける。手の中のアイスが溶けていくのでさえ愛しく感じる瞬間だった。


放課後の誘惑
(俺にとってはアイスなんかより、苗字さんのほうが魅力的やった)

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