めんどい朝練を終えて、だらだらと自分の席まで向かう。出そうになるあくびを堪えることもなく受け入れながら、机に鞄を置く。なんで終業式の今日まで朝練なんてもんあんねん。白石部長は鬼や。あの女ウケのいいマスクを被って、朝から過酷なメニューを提示しやがる。あっこまでいくと詐欺や。さっきまでの朝練を思い出してはまたイライラしてた。



『ざ、財前くん』



背後から苗字の声がした。振り返ると、柄にもなくおずおずと俺の様子を覗き込んでる。今日もかわいいやん、そんなことをチラリと思ってたら返事が遅れてしもてた。



『おはよう』
「はよ」
『しゅ、終業式やな。はよ体育館行かなあかんな』



うん。そう言うと、苗字は目をそらした。もともとってこいつ、誰に対してでも明るくて素直な奴ってイメージあったけど、今思てみれば俺に対してはいつももごもご喋る気がする。何考えてるんかわからへん。愛想ない。そう思われんのも別にどーだってええと思てたけど、苗字に嫌われることを思えば、ちょっとだけでも愛想よくしてみたらよかったかななんて柄にもない、出来もせんことを考えてた。そのまま終えた終業式。立ったまま寝て、意識が戻ったときにはクラスのみんなが教室に戻ろうとしてるとこやった。
重い瞼を無理矢理開けながら歩く廊下は実に不愉快。ゴミゴミしてるし、うるさいしで。前方に苗字の姿を見付けたときには、ラッキーなんて思たりもしたのに。横におる相手に俺の全意識を持ってかれる。



『やから蔵ちゃん!頼むわ!』
「あかん。なんで俺が受け取らなあかんねん」
『やって明日は土曜やから!なんべん言うたらわかってくれんの!』



白石部長と苗字のツーショット。じゃれあってる二人の様子を立ち止まったまま伺ってると、皮肉なことに白石部長と目が合った。ひきつる白石部長の顔を見たら、いてもたってもおれんくなった。部長に苗字を取られてたまるか。冷静になれそうもないまま二人の側へと駆け寄った。



「苗字、なにしてるん」
『ざ…!』
「ほーら、言わんこっちゃない」
『蔵ちゃん…』
「苗字」



はよ戻ろ。そう言うと、苗字は黙って俺の横についた。水色の小さい紙袋を左手に持ち、表情はどこか泣きそうにも見えた。笑顔が似合う苗字にこんな顔させるなんて。白石部長が恨めしい。
ふたりの関係なんて、考えてもわからへん。俺が自分から逃げてたから。やからこんなもどかしい思いする羽目になったんや。



「白石部長と」
『へ?』
「白石部長と、なに話してたん」
『そっ、それは…』


即座にそらされる目線。俺には言いたくないっちゅーわけか。まあ確かに関係ないんやけど。せやかて、そんなあからさまに避けることあらへんやろ。これ以上喋っとると暴言吐いてまいそうや。あっそ。とだけ言い残して、歩く速度をあげた。あ。と悲しげな声が背後から聞こえたけど、構わず苗字を残して教室に入ろうとした、その時。



『財前のアホ!鈍感!』



大勢の前で吐かれた暴言。イラッとしながらも振り返ると、苗字が赤い顔して俺に睨みかけてた。なんやねん。とだけ冷静に返したつもりやけど、俺かて睨みつけてしもたかもしれん。



『明日は財前の誕生日やから。蔵ちゃんにあたしの代わりにプレゼント渡しててって頼みに行っただけや!』
「…は?」
『明日から夏休みやん。今年は20日から夏休みやから自力で渡せそうにないし…。やから蔵ちゃんに頼んでただけやもん』



や、意味わからんにも程がある。今年は自力で渡せそうにない?去年?もらってへんっちゅーに。苗字からプレゼント貰えたんなら、絶対俺の記憶に残ってるはずや。どないなっとんねや苗字は…。



『あー!去年もろてへんし。とか考えてるやろ!もうええわ。去年の終業式の日、机の中にプレゼント入ってたやろ。水色のスポーツタオル』
「…あったけど。まさか」
『せや!あれはあたしからのプレゼントや!蔵ちゃんの話によると、忍足とかゆう先輩からってオチになったみたいやけどなあ!』
「急に開き直んねんな。後悔しそうな程暴走しとるやん」
『えーねんえーねん。もうどうせバレとんねやし!あたしな、財前のことずっと』



顔を真っ赤にしてる苗字を見てると俺まで赤くなってきそうや。慌てて目をそらすと苗字は言葉の続きを飲み込んだ。俺が拒否するとでも思たんやろか。苗字にそんな思いさしてるなんて夢にも思わんかった。情けないわ、俺。



「明日、18時頃」
『…え?』
「18時頃部活終わるから、迎えに来てくれたらええやん。そんときそれ、受け取るから」



プレゼントの中身を考えるだけで一晩過ぎそうや。絶対謙也さんやと思てたあのスポーツタオル。もっと大事に使っとけばよかった。てゆうか神様、明日こそ素直になれますように。誕生日くらい、素直に気持ちを伝えれたら。
とりあえず、今夜は眠れそうにない。


夏の鼓動


(…結局白石部長と)(ただの幼馴染み!知らんかったんかいな…)

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