3年になってから、月日が経つのは早いなと感じることが多かった。5月、6月、7月と。早いなりに詰まった思い出が頭ん中を巡る。
夏休みに入ってからは月日が経つんが一気に遅くなった。その理由ももうわかってる。よい夏休みを。終業式の日、俺にもそう言ってくれた苗字さん。ほなまた9月に。俺も苗字さんにつられて笑った。笑いながら別れたのはよかったのに。
やっと迎えた9月。俺はいい夏休みを過ごせたんやろか。怪しい気持ちを抱えたまま、長い長い夏休みを終えてやっと新学期を迎えた。
視界には友達と笑う苗字さん。これや。これこそ俺の毎日や。苗字さんの笑顔に癒されながら毎日を過ごす。ヘタレやら変態やらストーカーやら。何と言われようが構わん。なんかもう、ただの好きって気持ちだけやなくなってる。夢でもみてるかのように、ほわわんと始業式である今日を過ごした。最近の関西は急な天気の崩れもあるけど、今日の午前中はええ天気やった。苗字さんの姿を見てられるだけでこんなにも幸せを感じられる。
せやのに。贅沢なんて、求めてなかったのに。



『ああ、忍足くん。久し振りだね』



幸せやって話をしたら、テンション上がった白石に言いくるめられて、苗字さんに話し掛ける羽目になってしもた。気分はまさにゲリラ豪雨。なに調子乗っとんねん俺。見てるだけで幸せやって、改めてさっき思たとこやんか。



『いい感じに焼けたんだね!頑張ったんだね、テニス』
「ま、まぁ…」



終礼の後に話し掛けたもんやから、苗字さんの帰宅を遮ってるかたちになってしもてる。こんな時に話し掛けろとか言う奴がよう聖書って呼ばれてるもんや。でもやっぱあれや。せっかく久し振りに話せてんのに、伝えたいことのひとつも伝えられへんって勿体ないよな。前向きに捉えると、いい機会やんな。



『夏休み、たのしかった?』



好きです。とか言う勇気はないけど、伝えることならできる。言いたい言葉がある。苗字さんの目を見るとニッコリ笑ってくれた。苗字さんの友達も苗字さんと俺の話が終わんのを待ってる。バッチリ見られてるし。カッターシャツに汗が滲んでくる。



「俺が毎日頑張れてんのは苗字さんのおかげやねん。ありがとう」
『え、やだ。どうゆうことかな。私何もしてないよ?』
「それでええねん。でもまぁ、これで俺の時間もまた動き出したわ。これも苗字さんのおかげや。おおきに」



これ以上呼び止めんのも気が引ける。その前に心臓がもちそうにないんは置いといてっと。苗字さんに背を向けて、ようやったって笑ってる白石のとこに向かった。背中には戸惑いを隠されへん苗字さんの不安そうな声が聞こえてた。

変わらん毎日が、またはじまる。俺が毎日笑ってられんのは、苗字さんが同じ教室という空間で笑ってるから。まるで苗字さんから幸せを分けてもろてるみたいや。
2学期がはじまった今日はとりあえず気分がいい。気分をよくさしてくれる苗字さんに、心から感謝。


thank you for


(あの子は誰にでも優しく笑ってくれる)(きっと明日、俺にも)

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