恋をするなら夏がいい。
好きな人ができる前から思っていたこと。それは彼氏ができた今でも変わらない。やっと迎えた夏。燃える夏の太陽をめいっぱい期待してた。のに。



『あーもう!どうして毎日毎日雨なのよ!』



怒りをあらわにする私に、彼氏である謙也もたじたじ。6月に入って、やっと夏を迎えたと思ったのに。傘を持参して、それをフル活用する毎日。今日は降ってないやと思っても、空は雲で覆われている。せっかく謙也と一緒に帰れる、楽しい放課後なのに。



「まぁまぁ。梅雨明けたら完全な夏やし。もうちょっとの我慢やで」
『カレンダー上、6月は夏じゃない!』
「まぁ名前には夏が似合うな…。ってか、夏服似合いすぎやろ」



雨の中、笑う謙也に少しばかり心が和む。じとじと。じとじと。雨ってほんと鬱陶しい。謙也の笑顔が眩しいから、怒ってばかりいられないのも事実なんだけど。





「あ」





謙也が傘を傾ける。あれ。謙也が空を見上げたもんだから、私も傘を傾け空を見上げてみる。



『あっ…』



雲の切れ間から日が射していた。その光景が綺麗だったからか。ただ晴れたことが嬉しかったのかはわからないけど、どこか感動を覚えた。おもむろに傘を畳むと、頭上からクスッと笑い声が聞こえた。



「いつか絶対晴れんのに喜びすぎやろ。かわええな」
『そう、これだよ太陽さん。夏…って感じ』
「ほんまに好きなんやな、夏」



確かに私は昔から夏が大好きだった。でも違うんだよ。謙也といるから余計に。謙也がいなきゃ、もう私の夏は始まらないんだよ。再び空を仰いでみると太陽はもう、雲とお別れしていた。焼けてくるアスファルト。水溜まりでキラキラしている風景。こうして悲しいことも、あっという間に思い出になっていく。



『謙也と初めて迎える夏だもん。たくさん思い出できるよ』
「せやな。楽しみやな」
『でもひとつだけ覚えてて。私は夏が一番好きなんじゃない。私が一番好きなのは』



謙也しかないでしょ。そう伝えると、謙也は太陽に負けないくらい顔を真っ赤にして笑った。私もつられて笑う。それは夏のおかげでも、太陽のおかげでもない。紛れも無い、謙也のおかげ。ちょっと困らせたくなるような、そのくらい優しい謙也。そんな謙也とずっと一緒にいたいなって、今、空にお願いした。



『ねぇ』
「どしたん?」

『雨が上がったからさ。手、繋いでみようよ』



胸を焦がす恋なんて、お伽話の中だけだと思ってた。燃える夏の太陽が眩しすぎるせいかな。何はともあれ、謙也がいれば何にも怖くない。私たちにはきっと、粋な未来が待っている。


恋をするなら


(二度と返らない青春を、君と)

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