『ふええ…びしょ濡れだぁ』


さっきまで降ってなかったのに放課後になると急に雨が降ってきた。それも学校を出て間もない頃に降ってきたもんだから引き返すこともできなかった。
まだ開店していない居酒屋の軒下に入り込み立ち止まる。


『もう。早く帰りたいのに…』

下を向いてると誰かが駆けてくる足音が聞こえた。バシャバシャと雨の中を走る激しい雨音が私の近くで止まった。



「お、先客がおるんか」

自分の近くで立ち止まった足の主を確かめるために顔を上げる。声だけでわかったはずなのに。確認するまでは信じられなかった。

『あ、あの…』
「えらい急に降ってきたなあ、おかげでずぶ濡れやわ」

やっぱり白石くんだった。突然鼓動が速くなって胸が苦しくなる。
白石くんと肩を並べるなんて初めてのことで体に力が入る。雨音が頭に響いてうるさい。








1年生のころ、一度だけ白石くんと話したことがあった。
その頃の私は負けず嫌いなほうで、いつもひとりで前だけを見つめてた。そんな私で部活もうまくいくわけもなく。

「いろんなことを見たらまわりも変わってくんで」

柔らかな日差しを背に、優しい瞳で泣いている私を慰めてくれた。ただそれだけだったんだけど。

白石くんが心まで照らしてくれた。心まで満たされた。そんな気がした。


それからの私は、太陽みたいになりたい!そう思い続けてここまで頑張ってきた。
ちょっとだけでも、白石くんという太陽に近づくためにも。








「やまへんな、雨」

2年振りに会えた白石くんの言葉で我にかえる。何回も思い返してた2年前の出来事。それはいつも私を暖めてくれてたんだ。



『し、白石くん!』
「ん?」

『白石くんは私の太陽なの!』


最早これって告白じゃーん。完全に変なやつって思われた。ただ私は。


『感謝してますって、伝えたかっただけなの…』
「苗字さん頑張って続けてるもんな、バスケ」

雨音が止まる。いや、時が止まったみたいだった。

「独りよがりな苗字さんは、もうどこにもおらんくなったみたいやな」
『私のこと、覚えててくれたんだ…』
「少し背も伸びたよな。ここ1年は目にとまることも増えたし」



「てゆうか、わすれるわけないやん」



いろんなことを見たら、まわりも変わった?
白石くんが問いかけてきたから、大きく頷いた。



「俺が太陽なら苗字さんはひまわりやな」

瞬きも出来ないくらい、私も白石くんを照らしてやる。
ちょっとだけだけど、太陽に一歩近づけたんだろう。


白石くんのそばにいられるように、いつも心にひまわりという花を咲かせていよう。

そう心に誓ったら、いつの間にか雨があがっていた。




ひまわり


(いつの間にか過ぎる日々を大切だと感じながら季節は過ぎていく)
(まばゆい愛を太陽に与えて生きる私はひまわり)

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