3日程前から喉の調子が悪かった。多少辛くても学校は楽しい。なので重い体を引きずって通学していたら、喉の調子が悪化してきた。止まらない咳。咳する度に痛む喉。ついに学校を休んだ今日は、声を出すのも辛かった。

蔵ノ介の言う通りになってしまった。喉が痛いと言う私に、学校に来て、部活して。そんなことしてたら治るもんも治らん。そうぼやいていた。その時の私は、学校に来てみんなとお話しして楽しんでるうちに、辛いことだって忘れて。知らないうちに喉の痛みなんてなくなるだろうと信じていた。私が甘かった。いつだってそうだ。蔵ノ介は間違ったことを私に言ったことがなかったはず。



『蔵ノ介の言う通りにすればよかった…』



ぼやける視界。また意識が朦朧としてきた。もう眠くないのに頭が働かない。苦しさの余り、ベッドの中で体の向きを変えたりしながら苦しさを紛らわしてみる。すると何やらため息が聞こえたような気がした。このため息は蔵ノ介だ。小さい頃からずっと聞いてる。私の幼なじみの蔵ノ介のため息。



「ほーら。言わんこっちゃない」



慌てて布団を捲り上げて本人か確認をする。薄い視界の中に、確かに蔵ノ介を確認する。表情までは見えないが、どんな表情をしているのかくらい見当がつく。



『くっ、くら…!』
「こら。無理して喋らんでええの。大人しゅうしとき」



学校はどうしたんだろう。そう思ったら蔵ノ介も私の表情を読んだのか、もう16時だと私に笑った。なんだ、もうそんな時間なんだ。そう安心したのも束の間。蔵ノ介がこんな時間に下校していることがおかしい。



『部活…。休んだ…の?』
「あぁ。たまにはええやろ。俺も名前と一緒に休養」
『ばっ、馬鹿じゃない…』
「見舞いに来て馬鹿言われて俺も散々やな」



急に声を荒げたもんだから、目には涙が浮かぶ。また咳込むと、蔵ノ介は布団越しに胸元をトントン叩いてくれた。暫くして咳がおさまった頃には頭を撫でられていた。

昔も、こんなことがあった。

風邪をひいたとき。お腹が痛いとき。いつも蔵ノ介は頭を撫でてくれて。いつだってそばにいてくれた。蔵ノ介の大きな手は毎日テニスしているせいか、どこか固く感じたけど酷く安心する。昔と変わらない優しい手。



「そういえば、おばちゃんは買い物行ったで」
『…そうなの?』
「俺が来たからには安心や!って」
『…お母さんったら』



お母さんも私も。蔵ノ介をいつも頼りにしていた。それはあの頃よりは成長した今も、変わらない事実。いつか考えなきゃいけないって思ってたけど、蔵ノ介はいずれ好きな子ができたりして私から離れてっちゃうんじゃないのか。こうしていられるのも、あと少しなのかもしれない。体が弱ってる時って、心まで弱くなっちゃうから困る。



「大丈夫。俺はいつでも名前のそばにおんで」



また心を読まれた。病人相手にずるい。私だって蔵ノ介の心くらい読めるのに。全ての機能が低下していて、頭がものを考えるのを拒否しているのだろうか。



『…っ』
「なんや。どうしても言わなあかんことなんやったら言ってもええで」

『蔵…ノ介。…ありがと』



意識を手放しかけたとき、蔵ノ介の手が一瞬、強張ったことに気が付いた。蔵ノ介が来てくれて、いっぱい安心して。みるみるうちに睡魔に支配されていった。やっぱり蔵ノ介はすごい。今も昔も変わらず、私の自慢の幼なじみ。



「…俺の気持ちなんか気付いてないんやろーな。名前は」



蔵ノ介のそんな呟きは私には届かない。蔵ノ介に撫でられて、心地好く深い眠りについたのだった。


君の愛を胸に


(完全復活っ!)(よっしゃ。ほな学校行こか)
(蔵ノ介、ご機嫌だなぁ)

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