迎えの車が渋滞に巻き込まれてるらしい。執事が電話であと1時間くらい掛かると謝っていた。

こうして誰もいない教室でひとりでいるのもたまには悪くない。夕焼けが差し込んできて、冬なのになんだか暖かい。



「あれ、苗字」


ひとり黄昏れているとクラスメイトの財前くんが教室に入ってきた。微笑みかけてみると目をそらされた。


『今日もおつかれさま』
「おつかれ。って俺は今から部活やけど」
『忘れもの?』


そうそう。頷いて財前くんは机の中からノートを取り出した。英語のノートだ。宿題が出てるから持って帰らなきゃいけない。

「名前お嬢様と話せるなんて光栄やわ」
『え?』
「普段話すことなんかないやろ。やからさ」



普段からお金持ちのお嬢様だと囃し立てられ、興味本位で近付かれ、飽きられて学校でも孤独になっていく。今の財前くんのような台詞を言われるのももう慣れた。いつもなら気にならない。はずなのに。



『無理しなくていいのに…』



なんだか今日はその言葉が心に突き刺さった。改めて孤独なんだと。慣れてるはずなのにおかしいな。


「え?」
『無理して話してくれなくていい。私、ひとりでいるの平気だから』

真っ直ぐ財前くんの目を見つめてみる。財前くんは鞄を手に取った。気分を害したかもしれない。でも。でもこうでも言わないと私が虚しいままだ。



「行くで」

不意に手を取られた。強引に引っ張られ、よろめいてしまう。財前くんは私の鞄まで持ち上げた。
部活はどうするのだろうか。そもそも彼は何を考えているのだろうか。ぽかんと足を止めていると財前くんが口を開いた。


「ゲーセンでも行こか」
『げーせ…。それは一体…』
「ゲームセンター。名前お嬢様を連れ出すにはとっておきの場所や」


足が動かない。財前くんの行動がわからない。取られた手が熱くなる。よくわからない感情が込み上げてくる。


「ひとりでおんの平気なん?」
『私、みんなみたいに寄り道して遊んだりしたり出来ないから。だから私と友達になっても仕方ないの』


「決められたレール走んのつまらんやろ。名前は名前やで。好きなように生きたらええやん。

自分のしたいことくらい自分で決めたら」




全身の血が騒ぐ。一度しかない人生やで。財前くんがそう声を掛けてくれると、なんだか縛られていた心が少し緩んだ気がした。

今まで親の言う通りに生きてきた。ましてや反発したことなんてない。こんな風に名前を呼んでくれる男の子、今までいなかった。



『ゲーム…。行く。行きたい!』
「おっしゃ。任しとき」


絵本みたいなおはなし。
まるでお城から連れ出されたような。お姫様になったみたいだ。

財前くんのことを想うようになるのは、そんなに遠くないおはなし。


黄昏れロマンス


(昨日部活さぼったから部長にどやされたわ)(私なんか怒られるどころか驚かれたよ)
(怒られへんかったんなら、またどっか行こか)

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