放課後、考え事をしたくて屋上に向かった。屋上への重たい扉を少し開けたところで聞き慣れた声が聞こえてきた。声の主は名前や。話し相手は男。
告られとんやろか。
まさか名前が告ってる訳ないやろし。でも気になる。
男が結構な勢いで屋上から飛び出してきた。俯く姿勢から名前に振られたんやろうということが伝わってきた。
『悪趣味ですこと』
男が階段を駆け降りる後ろ姿を見送ってたら背後から声がした。振り返ると名前がおった。
「えらいモテんねんな」
『やめてよ。くーちゃんには敵わないって』
「そのくーちゃんゆうんもいい加減やめい」
名前とこんな風に話すんは何ヶ月振りやろ。
心が痛む程に刻み付けられた名前への想いが未だ消えへん。中学に上がってから自然と名前を意識するようになった。思い切って好きやって伝えたら名前は戸惑ったような顔をした。
『くーちゃんのこと好き、だけど。私、恋とかまだよくわかんなくて』
ごめん。そう告げられた俺は名前への想いを握り締めるしか出来んかった。名前は何を思い、何を望むんやろか。出した答えは、これまでと変わらん付き合いをしたらええんや。それだけやった。
『くーちゃん?どしたの』
名前の声で我に返る。別に今の関係に不満を抱いてる訳やない。けど。
「久しぶりに一緒に帰ろか」
『いいよ。ほんとに久しぶりだね』
もがくのはもう止めてまおか。無力な自分が情けない。結局諦められへんくせに。けど何か出来る訳でもない。でも。でも俺は名前を愛してる。
『くーちゃん。自分勝手なこと言っていい?』
「内容によるな。まあ言ってみ」
『私、わかんないって、言ったんだけどさ。くーちゃんのこと意識、しちゃってる。かも』
夕焼けが眩しい。小さい頃、名前とふたりでよく歩いた道をまた今、並んで歩いてる。
『さっき男の子に告白されたときさ。くーちゃんが頭をよぎったの』
運命って決まってんのかな。上手く言葉が出てこえへん。名前の言葉の続きが聞きたいのに。こうゆう時に気の利いた言葉を掛けてやれたら。
「俺、あんとき名前に告ったん。間違いやなかったかな」
『嬉しかったから、安心もしたし。私、臆病で。ごめんね』
手を差し出すと名前は手を握ってくれた。臆病なんは俺のほうや。笑われようが名前が好きやって言い続けたらよかった。
『私とくーちゃん、これからはずっと一緒。いいかな?』
頷いて夕日に向かってまた歩きだす。未来は不確かで不安になったりもするけど、きっと。俺たちなら大丈夫。
sweet pain
(昔よくこうして手繋いで帰ったよね)(覚えててくれたんや。嬉しいわ)
(くーちゃんとの思い出は私の宝物だからね)
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