雷蔵


(現パロ/年齢操作)


男友達の雷蔵には付き合って4年経つ彼女がいる。しかしその彼女がどうにも面倒臭い女らしい。週に1度は決まってデート、デート先は雷蔵任せ、気乗りしないと文句をつける、メールや電話は5分以内に返さないと拗ねる、雷蔵の予定を把握していないと不機嫌になる…等々、むしろ4年もよく続いたものだと拍手がしたいぐらいだ。それらのエピソードは雷蔵の口から愚痴として聞かされる。優しい雷蔵がここまで参るのだからよっぽど堪えているんだろう。それならもう別れたらいいじゃないって何度も言ってるのにその度雷蔵はうんうんと悩み始める。毎度毎度愚痴を聞かされるあたしの身にもなって欲しい。早く別れればいいのに。

…別れない理由は恐らく、これだけ酷い付き合い方をしていても彼女が雷蔵の事をとても愛しているからではないかと考えている。こんなにも誰かに愛される事は滅多にないので、その愛してくれる存在が居なくなる事に不安を感じているのだと思う。なんて女々しくて押しに弱い男なんだろうか。向かいに座ってカシスオレンジなんていうジュースみたいなアルコールをちびちびと飲む雷蔵を睨みつけた。頼むものまで女々しくて仕方が無い。

「ぷはー、ジョッキうま」
「相変わらずナマエはお酒強いね」
「男は黙って生一丁、でしょう」

ぐっと口元の泡を拭うと雷蔵は呆れたように笑ってカクテルに口をつけた。ガヤガヤと喧しい居酒屋ではあるが掘りごたつの個室であるためその喧騒はどこか遠くに感じる。突き出しの金平牛蒡を食べながら何を食べようかとメニューをめくりながら考えた。

「お酒はほどほどにね。僕、今日は話があってね」
「彼女の愚痴なら飽きたけど?」「そうじゃなくて……」

そこで一旦口を閉じて何やら悩み始める雷蔵。これが始まると長い事はもうわかりきっている。ボタンを押して店員を呼び、メニューから適当に料理を頼んだ。店員が去ってから雷蔵は話を続ける。

「愛するのと、愛されるの。どっちがいいと思う?」

てっきり別れるか否かとかそういう話だと思っていたので、思わぬ話題に吃驚する。そして雷蔵のあまりに真剣な表情は、からかった返事をする事も許されない雰囲気で。あたしは思っている素直な考えを話した。

「…そんなの人それぞれよ」
「君はどっちだい?」
「あたし?」
「うん。ナマエ。」
「………あたしは…、愛された方が幸せだと思う。勿論、相思相愛なら文句なしだけど。世の中そううまくいかないわ」

ノックと共に失礼しますという店員の声が響いて襖が開き、テーブルの上にサラダや前菜系の料理が並べられる。一通り並べ終わった所で襖は閉じられ、再び2人きりの空間になった。

「それを聞いて安心した。あのね、よく聞いてナマエ。」
「何よ」
「僕はナマエを愛したいんだ。」
「…は?彼女持ちが何を堂々とそんなセリフ言うの」
「そうだよ、僕は今の彼女にとても愛されている…ちょっと厄介だけど。けど僕は、愛される事が幸せだと思えないんだ。僕は誰かを…ナマエを愛する事を幸せだと思う人間なんだと思う。けど今愛してくれている彼女を失ってしまう事もとても怖いんだ、不安定になってしまう気がしている。臆病だよね…本当に情けない…」

雷蔵はやや俯きがちに話をするがその言葉のどれもが独白のようで、自分に語り掛けているような口調だった。けどその言葉をあたしの耳が掬い上げる。内容は矢張り思っていた通りの思考だった。しかし彼は相も変わらず悩みに悩んでいるのだろう。

「迷って、いたんだ。怖かった。」
「…雷蔵?」
「もしもナマエが誰かを愛する事で幸せを感じる人だったら。もしもナマエに愛している誰かがいたら、とか、僕は好きじゃない彼女と付き合い続けていいのか、僕には愛したい人が出来てしまったのに、とか。いろいろ悩んだ。人の心は複雑で、簡単に考えられるものじゃないからね。」
「…雷蔵、酔ってるの?」
「酔ってなんかいない」
「雷蔵、あたしはね。面倒くさい彼女と話し合うなりして折り合いつけてこれからもうまくやっていくか、別れるか、どちらかがいいと思ってる。そんなに好きでいてくれる女の子手離したくない気持ちもわかるからさ、今の彼女のこと大事にしときなよ」
「あんなに別れろって言ってたくせに?」
「雷蔵のその、あ、愛したい人があたしとなると話は別よ。私は友達として雷蔵に幸せになって欲しいからそんな面倒くさい彼女とは別れて欲しいと思ってるよ?思ってるけど…あたしを選ぶぐらいなら今の彼女を大事にして、愛される雷蔵でいてよ」
「だから僕は愛されても幸せじゃあないんだってば。どうしてそんな急に意見を変えるの?」
「だ、だって、あたしは雷蔵のこと……愛せないよ…?だったら今の彼女といるほうが幸…」

言いかけて、ノックの音が響く。店員がメインの肉・魚系の料理を机に並べていく。私は雷蔵の顔が見れなくて、並べられる様子を見つめていた。店員が出て行ってから雷蔵が口を開く。

「僕の幸せは君を愛する事だ。今の彼女にいくら愛されても幸せにはなれない…。もしナマエに好きな人がいるなら諦める。けどそうじゃないのなら、ナマエをうんと愛したい。ナマエは愛される方が幸せなんでしょ?だったら僕が愛してあげる。ねぇ、好きな人はいるの?」
「………好きな人は、いないけど…」
「だったら、僕と付き合って下さい。僕にナマエを愛させて。絶対幸せにするから。」
「………そういう事は彼女がいなくなってから言って。」
「…っていう事は…?」
「そんなに押されて…断れないわよ。改めて返事は、彼女と別れてから言うから。そういうのはきっちりしてよね」
「うん…!」
「雷蔵のせいで料理が冷めた。…食べるよ。」
「うん…っ!」



2014.0409

オチが行方不明なので墓場
愛されるよ〜り〜も〜愛〜したい
MA JI DE !!いい加減で頼りなくてそんな僕(←雷蔵)だけど〜〜〜




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