次屋


ずずず、と目の前で次屋はうどんをすする。食べ始めたばかりのそれは湯気を立てていて、ふぅふぅと少し熱を冷ましてから口に入れる様子から相当熱い事を想像させる。この机にはくのたまの私と次屋だけだが座っていて、周りはちらほらとくのたまや忍たまや個々に食事をしていた。話し声、食器のぶつかる音、それらが心地よく耳に馴染んだ。私も箸を進めないと…そう思い、目の前の定食に手を付け始めた時、すん、と次屋が鼻をすする。

「風邪?」
「いいや。なんかさ、熱いモノ食ったら鼻水出てくんだ」
「なにそれ?」
「おれにもわかんねぇ」
「……。」

なんとかは風邪引かないもんね。と言う皮肉はご飯と一緒に飲み込み、あぁ、おばちゃんの料理は今日も美味しいとじんわりとその味を噛み締めている間も、次屋はしきりに鼻をすすっている。そんなに鼻水が酷いのかと思い顔を上げて次屋の顔を見て、ぎょっとする。

「ちょ、っと、次屋!鼻血出てる!」
「えぇ?」

慌てる私とは対照的に間延びした返事をし、左手の甲でごしっと鼻の下を擦る次屋。みっともなく頬へと血が伸びて顔が汚れてしまった。本人は血のついた手を見て特に驚きはせず「ほんとだ」と呟いた。

「道理ですすっても戻って来ない訳だ」
「汚い話…と言うか、なんで急に鼻血なんか」
「お前と飯食ってるだけで何も興奮する事なんてねぇのにな」

ぼたりと垂れる血に意識が向かい彼の言葉を右から左へ受け流しかけたが、抜けかけた左耳はしっかりと彼の言葉を反芻して脳へ送ってくれた。鼻血の理由について聞いたのは私だが、次屋の一言には鼻血が出る理由がわからないという情報の他にもお前には色気を感じない(興奮しない)というちょっとしたイヤミを挟んで来た。今私の魅力に関しては全く関係ないのでは?

「……次屋さ、あんたっていつも一言多「ご、ごめんごめん!」
「すぐ謝るなら口にしないで」
「わ、悪かったよ…」

血が垂れる鼻を抑えながら苦笑し、彼はちらりと私の顔色を伺う。言ってからじゃ遅いのよ、この方向音痴め。彼は誰に対しても、その場で思った事を褒め言葉だろうが皮肉だろうが反射的に口に出してしまい、時々こうして相手を不愉快にさせてからすまなそうに顔色を伺う癖がある。

「鼻血だし…保健室はもういいか。…次屋ぁ、なんとかは風邪引かないって言うし、保健室とはあまり縁が無さそうね」
「いいや、そんな事はないぞ。気付いたら知らない場所で、足を滑らせて崖から落ちたりして怪我するし、委員会でもしょっちゅう怪我をしてる。保健委員には、数馬には世話になってるよ。怒られるけどさ。」
「あぁはいはい…」
「なんだよ、保健室の事はお前から言い出しただろ」

むっとしながら検討違いの話をする次屋を軽くあしらい大きな溜息をつく。もちろん私が言いたかったのは次屋への皮肉だ。なのにそれを何とも思わず真っ当な返事までしてきて、アホくさいったらないわ。
きっとこれが、次屋三之助…その為人なんだろうな。やってられん。


2014.0713


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