赤澤


普段は全く勉強なんてしないし家で教科書を開いた事もないくせに、テスト前になると皆一様に勉強に励み出す。そうじゃないと赤点を取って、さらには親に怒られたりするからだ。そこに知識をつけるため、自分のためという発想は一切なく、つまりやらされ感で動いているのだから当然頭にも入ってこない。こんな数式、シューショクしたらどうせ使わないだろうに、と文句を言いながらも私も例によって猛勉強している。放課後、友達と机をくっつけてお菓子を広げ、くっちゃべりながらダラダラと出来ないもの同士で進めていた。

「いや、まったくわからないからこれ。お手上げ。」
「投げ出すには早いよ、あや…」
「ナマエだって全然進んでないじゃん」
「それはそうだけど」
「んー…ここだけ先生に聞いてくるわ!わかったら教えてあげる!」
「いってらっしゃーい」

カタンと音を立てて立ち上がり、スカートを翻して友人・あやは職員室へと向かって行った。相変わらず細い足だな、ちゃんと食べてるのか、なんてことを考えながら自分はボリボリとポッキーを頬張る。明日からダイエット、は、女子の口癖だ。

問題集に目を向けて少しすると足音が聞こえてきた、あやが帰ってきたのかと思い扉の方を見ていると、姿を表したのはクラスメイトの男だった。

「赤澤じゃん。あやなら今さっき先生んところに…」
「え?あー、別にいい」
「えっ?あや探してたんじゃないの?」

私自身は特に仲がいい訳ではなかったけど、あやと赤澤が付き合ってる事は知ってたからそう声をかけると、赤澤は「ちげぇよ」と言って自分のロッカーを開けていた。忘れ物でもしたんだろう。

「一緒に帰る約束してんのかと思った。今日はいいの?」
「もう別れたよ」
「……………えっ」

背を向けたまま何でもないような口振りで聞いてないのか?と付け加えた赤澤は教科書を見つけ出すとくるりとこちらへ向いた。別れただなんて、知らなかった。あやなら私に話してくれると思うんだけど、てか、なんで2人は、

「なんで別れたのか聞きたいってか?」
「あっ、え…っと…」
「アイツに聞いてくれ」

友達がそんな大事な話を自分にしてくれなかった事のショックと、いま私が作ってしまったこの気まずい空気にいたたまれない気持ちになる。ごめんも違う、そっかぁなんて素っ気なすぎる、あれこれと言葉を選ぶために沈黙していると赤澤が大きな溜息をついた。

「そんなに気を遣われたらまた悲しくなるだろうが」

苦笑いを浮かべて、じゃあなと赤澤は去っていく。慌ててその背中に「ば、バイバイ」と返すのが精一杯だった。いつの間にか握っていた拳には汗をかいていた。


2014.0520


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