次屋


墨が染み込んだ紙を右手に持ち、左手は七松委員長に掴まれ、ずるずるとどこかへ引っ張られていた。七松委員長は歩くのが速い。必死について行こうと努力するが最終的には走り出した七松委員長に引きずられる形で目的地へと連れて来られた。

「ナマエーーーーッッ」

七松委員長はくのたま長屋のある方向に向かって大声で叫んだ。用事があっても踏み込めないのが規則だから仕方ないとしても呼び出される方はたまったものじゃないだろう。少しもしない内に戸を開く音閉める音廊下をバタバタと走る足音が聞こえてこちらにナマエと呼ばれた人が向かって来ることはわかった。

「うるさい七松!!」
「おお、来たか。お前に頼みたい事があってな。」
「どうも」

七松委員長に向かって怒鳴るくのたまの先輩にぺこりと挨拶をすると先ほどの勢いはすぐにしぼみ、今度は焦った様子で七松委員長と俺を何度も見比べるように忙しなく視線を動かした。

「え、ちょ、ちょっとどういう事…?」
「私お勧めのうどん屋があるのだが生憎今日は用事があってな。代わりにナマエに連れてってやって欲しい。地図は私が書いてやった。こいつが酷い方向音痴なのは知っているだろう?」
「成る程…じゃなくて、な、なんでわざわざ私なのよ…!」

それに関しては俺も同感だった。うどん屋に行くのは急がなくてもいいしいつでもいいと言ったのに無理やり絶対に今日行くべきだと予定を立てられたし、一緒に行くのも他の6年生だとか滝夜叉丸でも、地図があるんだから作兵衛でもよかったはずなのに七松委員長は絶対に今日この人と一緒に行けと言うことを俺に押し付けた。そこには何か理由があるに違いない。七松委員長がくのたまの先輩にこそこそと耳打ちをした。俺には聞こえなかったけど、くのたまの先輩がゆるゆると息を吐き出した様子を見るとその人は納得したらしい。

「それじゃあ、三之助を頼んだぞ!」

結局俺は何もわからないまま話が進み、とうとうこのくのたまの先輩と一緒に行くという選択肢しかないようだ。今更理由を聞くのも別の人がいいと言うのも何だか野暮に思えたので俺はおとなしく七松委員長の指示に従う事に決めた。右手に持っていた七松委員長お手製の地図をくのたまの先輩に差し出しながら、俺は先輩に告げる。

「連れて行ってください」
「あ、はい…よろしく…」
「あぁ、紹介し忘れていた。こいつはミョウジナマエ。くのたま6年で私の友達だ。三之助の事は…知っているよな?」
「さっきも思ったんですけど何でミョウジ先輩俺のこと知ってるんですか?」
「…えっ」
「細かい事は気にするな、三之助!」

何故か七松委員長から訳のわからない答えと背中へのビンタを数発いただきもうこの事については詳しく聞かないでおこうと決めた。暴力は反対だ。

「あ、三之助は本当にすぐ居なくなるから気をつけろ。手を繋いで行けばいい!なはは!」

こうなるともう七松委員長のペースで振り回されるしかない。俺は委員長の言葉を素直に受け取りさっきまで掴まれていた左手を差し出した。ミョウジ先輩は少したじろいで目をそらした。それからまた俺を見て、ぎゅうと手を握った。

「い、いこうか、次屋くん」
「はい、お願いします」

こうして俺は初対面のくのたまの先輩・ミョウジ先輩とお手手を繋いでうどん屋へと向かうという奇妙な境遇に身を投じる事となった。


(私からの誕生祝いだ、三之助とのデート受け取れ!)



連れて行ってください/次屋
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