作兵衛


いつだったか食満先輩と一緒に行った団子屋の看板娘はそりゃあもう別嬪さんで。まさに看板を背負うに相応しい人だった。名はナマエさんと言い、齢は食満先輩と同じ。ナマエさんは食満先輩の歯を見せて笑う仕草をうっとりと見つめているのを俺は知っている。食満先輩もそれを悟っている。そして食満先輩もまた、ナマエさんの鈴の音のようなきれいな笑い声にうっとりと耳を傾けているのを俺は知っている。ついでに、俺もナマエさんの事が好きだと言う事も俺は知っている。勝負がついているという事も。

「こんにちは、ナマエさん」
「あら、いらっしゃい、富松くん。…え、っと…その…留三郎くんは?」
「あー、食満先輩なら彼女さんと街へ出掛けていますよ」
「えっ、か、彼女さん?」
「はい」
「私そんなの初耳よ」
「え?ナマエさんと結構仲良かったですよね?聞いてないんですか?」
「え、えぇ…」

見るからに元気が無くなっていくナマエさんは本当にわかりやすい可愛い人だ。最近この団子屋に顔を覗かせるのは俺だけ。食満先輩にナマエさんには彼氏がいるという話をしたらぱったり足を運ばなくなった。食満先輩も単純な人だと内心でほくそ笑む。

「あれ、もしかして。食満先輩のこと好きだったんですか?」

眉を八の字にして誠に残念そうだという風な声を出す。どうせ俺なんかナマエさんの眼中にもない負け戦だ、それならせめて勝鬨を上げさせないように妨害するぐらい、許されるだろう。

「…別に、好きじゃなかったわ」

ぐっと唇を噛み締め目には涙を堪えている。悲しみに顔を歪めて店の中へと戻ってしまう。強がらなくたっていいのに。素直に好きだったと言って涙を流せばいいのに。俺はあんなにも辛そうな顔をして欲しい訳じゃない。食満先輩に嘘をついた時はこんな気持ちにならなかったのに、ナマエさんのあの顔を見た途端途轍もない罪悪感に駆られて心臓が潰れそうになる。すまねぇ、と思った。けど俺だってナマエさんの事が好きだったんだ。こんな言い訳も真実も言える訳がなくて、不毛に終わるこの恋はお互いにとって嫌な思い出に変わる事だろう。さっき妨害ぐらい許されるだろうと思ったけど、やっぱり、許されなくていい。俺は実りかけの恋を捻り潰した卑怯者だ。責任を持ってこの枷を背負って生き続けるから、食満先輩、ナマエさん、どうか俺を許さねぇでくれ。



どうか僕を許さないで/作兵衛
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作兵衛は恥ずかしいぐらいに熱くて真っ直ぐな恋をすると思うんですけどね、すみませんでした




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