波臨/葵さんより



「あなた、本当にゴミね」

「へぇ、ありがとう。」

「褒めてないわよ離れなさい」

「言葉遣い悪いと男に嫌われるよ〜?」

「黙りなさい」

「つまんないなぁ、波江さんは」

ぐ、と 背中に柔らかいソファーの感触を感じながら、波江は上に跨がる上司を見上げて舌打ちを打った。
暇だ暇だと言いながら仕事を押し付けて、次は何をするかと思えばのしかかってきて。なんなのかしらこの男。

「いいから離れてくれないかしら。暑い」

「そう?いま設定温度下げるから待って」

「そういうことじゃないわよ」

わざとらしく会話をずらす男の存在とその表情の腹立つ事。いらっとしつつも、静かにため息をひとつ。男のペースにのまれては、また更なる苛立ちをもらうだけなのだ。

ぴ、と、部屋の温度設定をリモコンを手繰りよせ 2、3度下げる音が聞こえた。


「で、どういうつもりかしら?」

「波江を犯したいと思って」

「早くどきなさい童貞」

「良いから付き合ってくれても良いじゃない処女」

「処女なんてとっくに誠二にあげたわ」

「妄想と現実を混同させるのはまずいよ波江さん。俺だって童貞とっくに捨てたよ」
「あら、貴方が捨ててるのは童貞だけじゃないでしょ」


ぶつぶつぶつと会話する二人は黙らない。会話を途切れさせる事は、今の波江にとっては負けのようなものなのだ。
ああめんどくさい。小さく心中で舌打ちをうち、早々に切り札を口にした。


「…どういう意味かな、波江さん」

「あら、そのままの意味だけれど。」


ほら、言ってしまえば、案外簡単なのだ、この男は。
のしかかる上司の表情とは反比例して、自分の笑みが深くなるのを感じつつ不意に手を伸ばした。
わざとらしく、厭らしく。


するりと頬から首筋を撫でると、臨也の表情は一瞬であるが強張った。

「…なに…君、どこまで知ってるのかな…!」

「あら、どうかしらね」

「お いっ!どこ触って…!」

別に何の意識もなく、ただ触れた太股を撫でただけなのだが。
その特別過敏な反応に、波江は良いものを見つけたとばかりに手を這わせる。舌打ちが上から聞こえ、手首を掴まれるのは同時で。

「…なに?こういうことがしたかったんでしょう?」

「は、冗談…普通逆でしょ波江さん、」

「ああ、そうね」


そう言い終わるか否かの瞬間に、足でのしかかる臨也の腹を思いっきり蹴り上げる。男はソファーから転がり落ち、床にたたき付けた背中と、蹴られた鳩尾の激痛に悶えた。ざまあみろと言いたい所だが、彼女はソファーからゆっくりと降り、横たわり咳込む男を跨ぐ。見上げる目は、重なる咳込みで潤んでいて、見様によっては扇情的に映るのかもしれない。

「あら、いい眺めね」

「…ゲホ…ッ…きみって…そんなキャラだったっけ…?」


ぶつぶつと非難を呟く男を見て目を細め嘲笑し見下す。男の骨盤あたりの上に、前屈み気味に座ると黒のインナーに、下から片手を入れる。もう片手は、そっと雄の象徴に。
厭らしく手を肌に這わせれば、跳ねるその姿が実に滑稽で、身体は正直じゃないかと揶揄した。

悔しそうに唇を噛む赤い顔は、思うよりずっと厭らしく、波江の瞳に映り、意図せず口角が上がった。

「あっ …ッん…っや、め!」

「都合がいいわね、自分から誘ったくせに」

「やっ 、あっ ぁあ…!」

まるでいじめっこの様な声色で責め立てる。それに反応し喘ぐ男の声は気色が悪いはずなのに、高ぶる胸の中の感情は、確実に嫌悪とは少し違っていた。

ふと改めて考えれば、その時、流石にこの男は快楽に慣れ過ぎている。そう思うべきだっただろう。
が、そんなことは、今の波江にとってどこまでも関係もなく、どうだっていい事だった。
ただ彼女の頭を支配するのは ただただ、雇い主の痴態ばかりだった。


「あっ、は…!も、ゃ だ…!」
「…厭らしい。」

少し視点を下ろせば、ズボンを持ち上げる雄が主張しており、片手で触っていたとしても、おざなり程度に指先でひっかく事しかしていない。
まるで嫌悪するように言葉を吐けば、それにすら感じるのか雄はぴくりと反応した。

流れた涙の跡が残る臨也の顔と、悔しそうであり快楽に堕ちたその表情。その直ぐ横に唇を寄せ、耳元で小さく、聞こえるように囁いた。


( 胸だけでこんなになるなんてね、

 …淫乱 )


その次の瞬間、波江は膝を、それに強く押し付けた。


「 ――ッひ、ああぁあああ!!」

ぐり、ぐりと大きく動かしたり、膝を小刻みに揺らせば、絶叫に近い喘ぎを吐く、その姿に興奮する自分に、気付いていない訳ではない。ただただ、快楽に沈んでいく雇い主の姿を見るのは、嫌いではないのだ。


「ああ゛っ!あ ひ… ! も、あ、イ、あああああああぁぁあ!!!」



のけ反った背と、ピンと伸びた脚。
切れる熱い息を吐き出す男を見ながら、波江は笑った。



(こんな日も悪くない)



そして再び、達したばかりのそこを刺激しはじめるのだった。
今日はまだ、終わらない。





(100915)
「耳を澄ませて、」の葵さんより相互記念です。
ふああああ!こ…これは素晴らしい…!はあはあ
てかなんで波江さんこんなかっこいいの!もう神すぐる。エロいのに上品な文章もそそります(^q^)ありがとう、ホントありがとう



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