SEXY PANIC:06
「やっと帰ってきたーぁっ!」
大きすぎる皮靴を脱ぎ捨て、まるで遠出した後みたいに久々な感じのする自分のマンションに上がりながら、俺は大いなる喜びを噛み締めていた。
やっぱここはいい。最高だ。俺の素敵な香り(波江さん曰く男臭)が充満していて快適にリラックスできる。
――さぁて、仕事仕事。
――いや、やっぱその前に一眠りするかな。
空腹を訴えて一直線にダイニングへ向かう波江さんを見送りながら、俺は何気なく寝室を覗いた。
――あれ、布団…シーツが丸ごとなくなっているんだけど。
「ちょ!!波江さん波江さん、シーツどこー?」
「…洗濯したわ」
「えっ?――なんで?」
直球で訊くと、食パンを放り込んだトースターの向かいでコーヒーの用意をしていた彼女は、僅かに視線をそらした。
「…内緒よ」
「もしかして、おねしょ?」
「だから内緒って言ってるでしょ…。大体ねえ、貴方がノーパンだからそういうことになるの!」
――成程。当たらずとも遠からずってわけか。
「気持ちよかった?」
「何が!?」
「俺の身体、感度いいでしょ」
「馬鹿、だからそんなんじゃないってば」
「じゃあ夢精?誠二君の夢見てたの?」
「違っ…」
「俺の息子役に立つでしょ、毎晩波江さんネタに可愛がってるから…」
「だーかーらあ、違うって言ってるでしょーがっ!!」
「げぶわあッ!!」
予期する間もなくして凄まじい衝撃が頬に食い込み、俺の身体(勿論波江さんのもの)は文字通りふっ飛んだ。
――え、何これ、嘘みたい。何でこんなことになってんの!?
「うっ――があ…!」
床にどさりと背を打ちつけ、身体が真っ二つに引き裂かれたかのような痛みに呼吸さえままならない。
悶絶して苦痛に耐えること約2分――
瞳を潤ませながら軋む上体を起こせば、何故か未だ同じ場所に立つ波江さんの姿が。はあはあと荒い息をつきながら拳を固め、それを自分でも不思議そうに見下ろしている。
「何だ、生きてたの」
俺が見つめているのに気付くと、ふうと息を吐きながら残念そうに言った。
「そんな……酷いよ波江さん、本気で殴るなんて!」
「あはは、あなたってこんなに力あったのね」
「は?だってそりゃ、男なんだし当然女よりは…って波江さん聞いてる?」
「分かる?臨也。これがどういうことなのか」
「え?だから何だよ?」
若干苛立ちながら尋ね返す。
すると何ということだろう、俺を見つめる波江さんは世にもおぞましい笑顔を浮かべた。
――え!?俺のイケメン面をそんなに変形させるなんて、もしかして凄い悪事でも企んでんの――と思った矢先、
「そう、これはつまり――貴方をいくらでもボコれるってことよ!」
「ボコ…ってちょっと待って!言っとくけどコレ、仮にも波江の身体だからね!全然得じゃないよ!?」
「……あら?本当だ」
――訂正。
波江さんはやっぱりただのボケだと思う。作文。
20100819
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