SEXY PANIC:02



「波江さんだ!波江さんがここにいる!」

ようやく現状を理解した俺は、いささか過剰に興奮していた。

「こんなことが実際にあるなんて!信じられない!アンビリーバボーだよ!」

素晴らしい、素晴らしいと大声で連呼しながら鏡の前で華麗に一回転する。
白くキメ細やかな肌、艶やかな長い黒髪、形のいい胸にキュッとくびれたウエスト。その姿はどこをとっても自分のよく知っている矢霧波江そのものだった。
なんということだろう!
――いや。ここまで完璧に変わっていると、逆に自分が本当に折原臨也だったのかさえ怪しくなってくるというものだ。もしかすると自分は元から波江だったのかもしれない。臨也は架空の人格だった…なんてね。ああ、仮にそんなことがあったとしても不思議はない!
突然舞い込んだ素晴らしい非日常にニヤリとほくそ笑み、俺はそこであることを思いついた。

「あ、そうだ。折角だからどこかに出かけてみなくちゃねー」

そこは当然、ノーパンで。

波江の荷物をごそごそと漁り、適当な衣服を引っ張り出して一揃い身に着けてみる。
下は勿論スカート。そうしないとノーパンの意味ないからね。

「いや、どうせならブラジャーもつけない方がエロスを満喫できるな」

ブツブツと独りごちながら、先程つけた下着を外す。
――よし、これで外出の準備万全。さあて、まずはどこへ行ってみようか。手始めにシズちゃんを驚かせるっていうのもいいな。あいつ絶対童貞だよ。
俺は官能的な妄想に胸を躍らせつつ、部屋のドアに手をかけ一歩外へ――

「ってぎゃああああッ!!」

出ること叶わず、急遽外からなだれ込んできた人影に押し倒された。
もつれ合い、ひっくり返ってゴツンと派手に頭を打つ。

「うげえッ…ちょ、何なのいきなり――って、エ!?」

顔を上げて愕然とする。
そこに立っていたのは俺、だった。すなわち折原臨也、俺の身体。
俺の身体は後ろ手でドアを閉めるとギョっとした顔でこちらを見下ろしてきたが、何故か深刻味に欠ける内股立ちだった。

「え、ちょ、何?あんたさあ、俺だけど俺じゃないよね?やめてくんない?そのオカマみたいな立ち方」

俺は眉宇を潜めて俺自身を見上げる。
ふと、その手がぴくぴくと病的に震えていることに気付いた。

「…んで……なの…」

「はい?」

「なんで…なんでパンツ穿いてないのよおおおお!?」

「ぎゃああああッ!!」

俺の身体は俺(波江さん)の腕をむんずと掴み、無理矢理引きずって部屋の中まで戻ると、ベッドの上へ乱暴に投げ出した。
そのままずんとのしかかられ、両手首を拘束される。
俺は力を込めて抵抗しようとしたが、これがどうにも上手くいかない。やっぱりダメ、女の身体ってヤワだ。ただなされるがままを受け入れるしか無いなんて。

「あんた誰だか知らないけどね、他人の身体で一体何考えてるの!ノーパンなんて有り得ない!ホント有り得ないわよ!あの子以外の変な男が寄り付いてきたらどうしてくれるの!」

「うわあッ!」

視界が蔭り俺の顔が迫ってくる。こんなときにこんなこと言うのもアレだけど――やっぱりカッコイイ。
ていうのは冗談!
何だか分かんないけど本気で殺されそうだ――俺に。

「ちょ、乱暴はやめてくれ!ごめんなさい、ごめんなさい…!あ、でも言っとくけどね、きみの方こそ俺の身体でオカマしゃべりするなんて超ッ迷惑なんだからね!」

「……え?」

俺の身体は突然ピタリと動きを止めた。不思議そうにパチパチと瞬きをする。
そして呟くように尋ねた。

「“俺の身体”って…もしかしてあんた折原臨也?」

「え、ああ、それはそうだけど?ん?じゃあええっと…もしかしてキミ…ひょっとして波江さん!?」

「ええそうよ?」

え、何ソレ。俺たちは互いに視線を交わし――






「うわあああああああ!!」

同時に馬鹿みたいな悲鳴を上げた。





20100616


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