拾ってやってください



※帝×(青+臨)。「脳をいたぶる熱」の続編です




「帝人くんはどこかなー…っと!」

折原臨也はビニール傘を差しながら薄暗い池袋を軽い足取りで進んでいく。
雨、雨、雨。天気予報は全くと言っていいほどの大外れで、東京中どしゃぶりの雨に見舞われていた。
――こりゃ、いくら心配性の帝人君でも傘を持ってないに違いない。
甘ったるい想像で胸を一杯にする臨也のもう片方の手には上等そうな黒い傘がすっぽり収まっている。これを何に使うかなんてことは察するに容易い。
しかし彼は次の角を曲がったところで予想外な存在に出くわした。

「にゃあ」

「……え。」

段ボール箱にみっちりと収まった人間をひと目見て、彼はこれをなかったことにするべきかどうか迷った。

「げ、折原…!」

どうやら向こうもこちらの存在に気付いたようで、明らかに「しまった」という表情を浮かべている。
そこに少し興味が湧いたので、臨也は一応話しかけてみることにした。

「えーっと…何してるのかな、黒沼青葉くん」

傘も差さずに濡れたダンボールの中に縮こまる少年をしげしげと見下ろす。この際びしょぬれなのは度外視して、身体中ぼろぼろかつ傷だらけなのが若干気になるところである。――しかも、

「何でパンツなんかかぶってんの?」

「いや、ね?これ被ってたら帝人先輩が見つけてくれるかなー、と思いまして」

「いやいや何でそこで照れる?てかコレ誰のパンツなの?」

「帝人先輩のお古ですよ。あ、言っとくけど誰にもあげませんよ?って痛っ!」

「へえー、帝人くんってこーいうぴっちりしたやつも穿くんだ?」

青葉の声を無視し、穿き古されて穴の空いたボクサータイプのパンツをつまんで眺める。
確かにものすごく美味しい代物ではあるが、こんな気持ち悪いやつの使用済みとあってはもうさほどの価値もない。

「アイタタタ…っておい折原!俺頭痛いんだからもっといたわりやがれ!」

明らかに過剰反応を示す青葉を見て、情報屋ははてと首をかしげる。

「キミ頭に怪我でもしてるの?あ、分かった!ついに脳みそ腐ったんでしょ!だーいせーいかーい!」

「や、違います。その、ゴミ収集車に…ってそういうアンタこそこんなとこで何してんですか?」

無理矢理話をそらす作戦決行。

「え、俺?これからもれなく帝人君を迎えに行く予定だけど」

「何…ですって!?」

ニヤリと自慢げに笑う臨也と手にした傘を交互に見て、少年はくりくりした丸い目をさらに大きく見開いた。

「なっ!?帝人先輩はここで俺を拾って帰るんです!アンタなんかの出る幕はありませんよ!」

「は?え?もしかしてキミって…」

「そうっすよこれは捨て猫のマネです!愛護精神に訴えかける作戦ですが何か?ってか文句でもあるんですかこのクソ野郎!」

「いや…猫って」

――捨て猫?何ソレ。
単語を噛み締めるように反芻したその瞬間、タフでおちゃめな情報屋さんのツボがものスゴい勢いで押された。

「プ――ちょ!痛いってコレ超痛すぎるよキミ、あっははははは!もう、バッカじゃないのぶっふぇへへへ!」

箍が外れたのか、突然腹を抱えて壊れたように笑い出す。
そんな臨也の反応に若干傷ついたらしい青葉は、童顔を真っ赤に染めてわめき散らした。

「そんなに笑うな!そういうアンタだってこの前先輩ン家のベランダに居たじゃないっすか!」

「はあ?あっははそれを知ってるってことはつまり、キミだって帝人君をストーカーしてたんじゃないのかなあ?馬鹿まーるだーし!」

「ストーカーとかアンタに言われたくないっすよ!この変態ホモノミ!」

「なっにをー!?ばーかばーか!お前だって童貞インポのくせに生意気なんだよ!」

「インポとか誰に言ってんだあああ!?え?俺だってね、言っとくけどでかいんすよ!アンタの矮小ち○ぽなんかより余程でかいんだ!」

「ふん、そんなの俺のいきりたつ息子を拝んでから言ってみな!泣くぞコラ!」

「ああいいですとも!こちらこそ見せ付けてやろうじゃないすか!泣くなよ?え、泣くなよ?」

「キミたちそこで何してるの」

互いにジッパーを下ろしつつ睨み合っていた両者は、その言葉でふと我に返った。
ゆっくりと首を回し背後に目を向ける。
走ってきたのだろう、そこに息をきらせて立っていたのは――
今朝方青葉を叩き割ってゴミ袋に詰め、臨也をまるで犬か何かのように飼いならすことのできる、池袋一ミステリアスな少年だった。

「せ、せんぱ…?」

「帝人くんこれはその、えーっと…」

やり取りの終盤を聞かれていたらしいことに気付き、激しくうろたえ始める臨也と青葉。
しかし帝人はこれといって特に気にした様子もなく、

「へえ…そう、卑猥物陳列選手権ね。っていうか青葉くんまだ生きてたんだ?ああ…臨也さんの方はわざわざ傘持ってきてくれたんですね。たまには役に立つじゃないですか、ありがとう」

いつも通りのにこやかな笑顔でさらりと言うと、臨也の黒い傘だけをグイともぎ取って礼を言いながら離れていった。






「帝人君ってホントいい子だねえ…」

「…そうっすね」






その少し後、連れ立ってビデオ屋に入っていく二人が目撃されたらしい。
何でも成人向けコーナーにいるところを、少年の方だけが店員に引っ張り出されていたとか。





20100619


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