脳をいたぶる熱



人生早16年、童顔少年の春は遅れてやってきた。
死ぬほど好きな人ができたのだ。それはもう、脳みそがだらしなくトロけてしまうほどに。





――ああ!今日もなんて清々しい朝なんだろう!
黒沼青葉はアパートの階段を駆け上がりながらウキウキと胸を躍らせる。
小鳥が愛らしくさえずり、さわやかな風が頬を撫で――思わず笑みを零しながら彼は慣れた手つきで愛しい人の家の玄関を開ける(それを別名ピッキングとも言う)。

「帝人先輩っ、お迎えにあがりましたーあ――げぶら!」

顔面に只ならぬ衝撃を受けた。

「うーん、別に迎えとか頼んだ覚えないからね。ああそうだ、うちも指紋認証とかつけた方がいいかな」

ピコピコハンマーを握った帝人がニコニコしながら顔を出し、青葉は薄目を開けてそれを見た。
か、可愛い…!
寝坊してしまったのだろう、食パンをあむりと咥える姿はまるで純真無垢なエンジェルである。が、ピコハンに鼻っ面を強打された青葉は実際問題それどころではない。

「み゙、帝人ぜんば…うっぐう、あ゙、愛のギッズを゙…!」

ああ、痛い。もの凄く痛い。これが愛のムチというやつか。
ダラダラと赤いエキスを垂れ流しながらも果敢に朝の接吻を試みようとするも、ニコニコ笑顔の帝人に押しのけられてしまう。

「ちょっと退いてくれない?今日ゴミの日だし、燃えるゴミ出さなきゃいけないから」

「ああッ、先輩ちょっと待っ…」

「え、なに聞こえなかった?それとも、キミもゴミに混ざりたいのかな?」

「ぶはッ!ちょ、先輩その顔反則…ってぶっひぁあああ!」

「何喜んでるのかなあ。ちょっと意味わかんないんだけど」

2撃目のピコハンが顎にヒット。ドサリと地面に転がる青葉を冷ややかに見下ろしつつ、ショルダーバッグを引っさげた帝人はゴミ袋を片手に廊下へ出た。

「うう…あ、先輩!」

鍵をかけてから振り返ると青葉はもう復活していた。

「……。」

「帝人先輩!そのゴミ重いでしょ、持ちますよ俺!」

「……え。そ、そーぉ?悪いねー」

「お安い御用ですよこのくらい。その代わり袋の中身全部くださいね!」

「え?青葉君キミ、こんなゴミ貰ってどうするの?…ってハッ!ま、まさか…!」

「うふふふふーお宝ゲット!帝人先輩の処理済ティッシュだあああ!」

既に時遅しだったようだ。ゴソゴソとゴミ袋をあさり尚且つとんでもないものに欲情する、完全に脳みそをやられた後輩がそこにいた。
帝人は一瞬にして能面のような無表情になり、ぼそりと呟く。

「残念だよマゾバ…」

「え?」

「……バイバイ」

彼は細い手で消火器を持ち上げるとその場で後輩を撲殺し、さっとゴミ袋の中に詰め込んだ。――それは驚くベき早業。慣れているのかと疑いたくなる。

「燃えるかな?…うん、燃えるよね」





20100612
企画『汝の隣人を××しなさい』様提出


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