何か問題でも?:02



臨也がゆっくりと意識を覚醒させると、身体全体に奇妙な違和感を感じた。
四肢がこわばったように動かない。
彼の自宅にあるベッドとは感触が異なるためどこか別の場所で眠りについたのだとは思うが、記憶を辿ってみても曖昧なままだった。何故こんなことになったのか思い出せない。

「…ばくん…っと……使って…し……ように…」

この声は帝人の声だろうか。胸の辺りに暖かな重みを感じ、臨也は瞼を下ろしたまま微かに眉根を寄せた。くちゅくちゅと飴を舐るような粘着質な音まで聞こえてきて、何だか腰の辺りがむずむずと――

「イ、痛っ!!」

今、噛まれた。ななな何だコレは。
臨也は鋭い痛みに驚いてぎょっと下を見遣り、明るい視界に飛び込んできた衝撃の光景にあんぐりと口を開けて固まった。
そして思い出した。何か大事な話があるとかいう理由で帝人の家に招かれたことを。

「もう、青葉くんたら。もっと優しくしゃぶらないとダメじゃない」

「う…そんな…。オレがこんなやつに、やっ、優しくするんですか…?」

「何か問題でもあるの?だってほら、青葉くんは僕に欲情するホモなんでしょ?だったら男の人と絡むくらいわけないじゃない?ね、だから早くして。カメラ回しっぱなしなんだ」

「うぅ…せ、先輩……」

青葉は泣きそうな顔をして帝人に視線を送ったが、当人は朗らかな笑みを返すだけだ。臨也が見たことのない冷ややかな眼差しとともに。

「え?えっと、これはどういうことなのかな…?」

臨也は激しく動揺しながら帝人を見上げ、かすれた声で問いかけた。
なぜ自分が裸のままボンテージで拘束されているのか。なぜ青葉が自分の胸の上で乳首をしゃぶっているのか。なぜ帝人がビデオカメラを回しながら後輩に卑猥な行為を強要しているのか。考えれば考えるほど謎だらけだ。
帝人は臨也の覚醒に気付くと、困ったというように眉尻を下げた。
――しかし。

「なんだ、起きちゃったんですか臨也さん。ちょうどいいや。青葉くん、バイブのスイッチを中にしてくれないかな」

ろくに答えにもなっていないその言葉を聞いて、臨也はハッとした。
――間違いない。
眠気の所為で鈍っていた感覚が鮮明になるにつれて、腰に突き刺さるような異物感が大きくなっていた。臨也自身の身体感覚に狂いがなければ、アナルに指のようなもの(?)が入れられているらしい。

「分かりました…先輩」

臨也の上に覆いかぶさり乳首を舌で転がしていた青葉は渋々といった様子で頷き、下穿きの完全に剥ぎ取られた下肢へと手を伸ばした。
その様子を黙って眺める帝人は顔を赤らめるでもなく、いっそ別人かと思うほどに平然としている。それが余計に恥ずかしくて、臨也は思わず顔を背けた。
気絶していた間に与えられた刺激によって臨也の性器は多少勃起していたようで、斜め60度程度持ち上がっている。
青葉の手はその下を潜って臀部から半分覗くバイブレータを握りしめた。手前の方に突出しているスイッチをカチカチと押すと、ヴイーンという無機質なモーター音とともに埋め込まれたボディが回転を始めた。

「う…あ……な、にコレ…はぁ…ぁ、ア……っ」

臨也は何とか身体を捩って暴れようとしたが、四肢が縛り付けられているこの状況下ではそれも無駄な動きに過ぎなかった。
中で暴れ回るバイブのカリがぐりぐりと腸壁を抉り、わけの分からない浮遊感に声さえ抑えられない。

「青葉くん、そのまま適当に抜き差しして」

帝人がカメラをズームに切り替えながら命じると、青葉は臨也の膝裏を押さえつけたまま、慣れない手つきではあるもののゆっくりと抽挿を始めた。振動と回転に前後運動が加わり、バイブの突き刺さった結合部からぐちゃぐちゃと気持ちの悪い水音が漏れてくる。

「はぁあ……ぅ…あン…」

「どうっすか。折原さん」

青葉の顔は嫌悪に引きつっていたが、その声音にはどこか面白がるような色が見え隠れしていた。

「く…そ…っ、お前……やって…くれちゃって、さ」

臨也はうっすらと涙の滲む目で青葉を睨んだが、青葉は都合よくそれをかわして臨也の白い胸に顔を埋めた。ちゅうと突起を吸い上げる動作は、拙いが故に容赦がない。

「や、何す……、あっあああ、あ…!」

押し込んだバイブで激しく中を引っかかれ、臨也は甲高い声を上げて背をのけぞらせた。

「…オレだって、やりたくてやってるんじゃないですからね」

「ふ…ぁ…、…じゃあ、何…で」

何故そんなにしっかり勃起しているのかと尋ねれば、青葉はふうと一つ苦しげな吐息を吐き出した。

「……好きだから、じゃないですか。……が」

投げやりな囁きとともに、蜜を溢す臨也の性器にカチャリと冷たいものが取り付けられた。
――コックリング。
特殊プレイに興味のない臨也でも名前だけは知っているそれが装着されると、強制的に閉ざされた射精感にずくりと腰が疼く。同時に恐怖までもが湧き上がり、彼は切羽詰った声で助けを求めた。

「や、だ…ぁ…とって…痛、から…とって…!」

「――青葉くん、臨也さんにキスしてあげて」

「はい…先輩」

青葉がこくりと頷いて顔を上げたその一瞬、臨也とばっちり目が合った。
潤んだ臨也の目は「キスしたら殺すぞ」とはっきり脅しかけていたが、この状況では全く意味をなさない行為である。
青葉は臨也自身の熟れた先端を指の腹で揉みながら、肩に手をかけて顔を近づけた。
互いに好きでもない相手の吐息はまとわりつくような煩わしさだったが、吐き気に襲われるというほどでもない。客観的に見れば臨也の容姿は眉目秀麗と形容するにふさわしく、青葉もまた、少女のような愛くるしい顔立ちをしていた。
密着した互いの身体からは薄っすらと人工的な芳香が漂った。臨也の身体に擦りこまれた高価な香りに苛立ちを感じ、青葉はきゅっと唇を噛んだ。

「――オレは負けませんよ」

「あ……っふぁ、何、が…」

「負けませんから」

青葉は快楽にがくがくとうち震える臨也の頭を掴み、半ば噛み付くようにキスをした。
傍からそれを眺める帝人は酷く嬉しそうな笑みを湛え、ビデオを回したままデジタルカメラのシャッターを切った。パシャ。パシャ、パシャ。何度も立て続けにシャッタースイッチを押す彼の頭は、来月入稿予定の本のことで一杯になっていた。




20101207
企画『何か問題でも?』様へ


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