眠れる君に王子のキスを



70000打
リーオ様へ!



「ちょっと臨也ー。いつまでサボり通すつもりだい?」

人の良さそうな養護教諭に軽く頭を下げてから、僕は白いカーテンをかき分けて奥を覗いた。
ベッドの真ん中が人型にこんもり盛り上がっているが、身じろぎする気配はまるで無い。

「臨也、寝てるの?」

反応のないことに深いため息をつきながら、俺はベッドの枕元に足を向けた。
この男、今日は一限の途中で抜けたきり、まだ一度も教室に戻っていない。
普通だったら具合が悪いのかと心配するところだが、彼の場合は違う。両親が放任主義であるのをいいことに、夜中までフラフラ遊び歩いているのだ。恐らく今回も単なる寝不足なのだろう。
サボりたいだけサボる、怠惰な奴。先生に怒られても「けっ何が悪いんだ」って顔してる。
そのくせ定期テスト前には全プライドをかなぐり捨てて泣きついてくるから、日頃真面目にやってる僕としてはかなり複雑な心境だ。
ベッドの横に回ってしげしげと覗き込むと、目を閉じてすやすやと寝息を立てる臨也の顔が見えた。
俯き加減のまま白い枕を愛おしそうに抱きしめ、満ち足りた表情で眠っている。
口の端から一筋涎が垂れているのを見つけ、思わず笑いそうになってしまった。
起きているときの臨也は本当に傍若無人で迷惑千万極まりないけれど、流石に寝ているときまではそうはいかないらしい。こうしているとまるで普通の男子高校生みたいだ。元々顔立ちは無駄に整っているから、ちょっと美形な高校生かな。
ああ、毎度のことながら起こすのはもったいないけど、でも仕方ない。
新任の英語教師は端から臨也のことを疑っていて、連れ戻してこないと僕にまで補修プリントをプレゼントするぞと脅してきた。
あんな簡単な問題、無駄に腕が疲れるだけだから、できることなら勘弁してほしい。

「臨也。起きて、臨也」

私がユラユラと身体を揺すると、臨也は目を瞑ったまま不快そうに顔をしかめた。

「ん……う、ン…」

「起きてよ臨也。じゃないと静雄くんを呼ぶよ」

「やだぁ…しねシズちゃ…んん…もっと寝かしてよ……」

成程、どうやら静雄程度じゃインパクトが足りなかったようだ。
臨也は怒ったようにうーんと唸りながら掛け布団を手繰り寄せ、目を開ける気すらないと見えた。

「困ったなあ。じゃあ何?僕は目覚めのキスでもすればいいのかい?」

「キ……え!?」

僕の一言に反応したのか、臨也はハッと目を開けた。
そして自分の目と鼻の先に僕の顔があることに気付くと、居心地悪そうに視線を泳がせた。

「ふ…ふん。できるもんなら、やってみなよ…」

「はは、良かった!どうやら完全に目が覚めたみたいだね!」

「ちょ、何、キスはしないの?」

「そうだなぁ。…キミが所望するならしてもいいけど?」

わざとそう言ってやると、臨也はきゅいと僕の袖を引っぱって、恥らうような小さな声で「お願い」と囁いてきた。
なんだ、たまには素直になれるんじゃないか。
僕はキョロキョロと周りを見回してから布団を捲り上げ、ちょっと浅めのキスを落とした。




20101125


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