笑い事じゃない



※静臨←波


俺には重大な悩みがある。
平和島静雄。池袋の喧嘩人形とあだ名される彼と付き合い始めるまでにはまあ色々とあったのだが、肝心のそれ以降が問題だった。
あいつのアソコは、それなりに自信のあった俺でさえ真っ青になるほどの規格外ビッグサイズだったのだ。最初の内はそりゃあ酷いもので、俺は引きつれる痛みに泣き叫び、楽しいはずのセックスは毎回気絶で終わった。
しかしそれも両手の指を使い終わる頃にようやくマシになり、行為も週に数回という頻度が定着した。馬鹿力のシズちゃんも少しはコツを掴んできたらしく、俺自身もだんだんと快感のツボが分かってきた。
これでボラギノールのお世話になることもなくなるだろう。俺が肩の力を抜いてホッとしたのも束の間、今度は別の問題が降りかかってきた。
恐ろしいことに、頻繁に行われる行為の所為で俺の孔はゆるゆるになってしまい、以前のようにキツく絞めることができなくなっていたのだ。
風邪で腹を壊してようやく、俺は事の重要性に気が付いた。なにしろ我慢ができない。ちょっとの間でも。トイレへと走る数十秒の間でさえ堪えるのがやっとで、パンツの換えなしにはおちおち外出もできなくなってしまった。
さて。これは流石にまずいと感じた俺は、日常生活に括約筋のトレーニングを取り入れることにした。
トレーニングと言っても何のことはない。事務所でパソコンを弄っているときや電車の中、信号待ちの空き時間などに尻孔にキュッと力を入れる。これで少しは括約筋を鍛えられるとどこかのブログに書いてあったのである。
――キュッ。キュッキュッキュッ。
やばい。確かに気軽に実践できるのはいいが、下に意識を集中するとつい気持ちよくなってきてしまう。唯一このトレーニング法の問題点である。

「ねぇ…貴方、さっきから痙攣してない?」

椅子が軋む音に気が散ったのか、同室で書類整理をしていた波江がこちらに胡乱な目を向けてきた。

「え?…あはは、べ、別にそんなことないんじゃないかな?」

「そう?顔も赤い気がするけど」

「やだなあ!そんなことないって!」

もう彼女のいるところでトレーニングするのはやめようと決心しつつ、俺はこの場を誤魔化すのに必死である。
波江は明らかに不審に思ったようだが、幸い眉間に皺を寄せただけで書類の山に目を戻した。元々弟以外の人間に対する興味は薄いようだし、細かく追求するつもりもないのだろう。

「…そう言えば貴方って、平和島静雄と付き合ってるのよね」

「え?あ、まあ」

「男の人同士のセックスってやっぱり、そっちの穴を使ってするわけ?」

ブフーッ、と盛大に噴き出した俺に目を向け、彼女は驚いたように数度瞬きした。
ああ、ああ、ものを飲みながら話なんてするもんじゃない。カフェオーレがあちこちに飛び散ってシャツも大事な書類も酷いことになってしまった。

「く…は……もう、やだ最悪。どうしてくれんのさ、全く…」

「何よ。貴方こそ、日頃から卑猥なことばっか考えてるからいけないのよ」

「はあ?んなわけないでしょ。俺をヤラシイ目で見ないでくれる?」

「じゃあコレは何かしら」

布巾を手に近づいてきた波江が、俺の背後からノートパソコンのモニターを指し示す。閉じ忘れていた液晶がでかでかと映し出すのはあろうことか、大人の玩具ショップの注文画面。

「う…わっ!」

「それをどうするの?」

「な、ちっ違うし!これはシズちゃんに使うためにだね――」

「うそつき、」

耳元で低く囁かれ、背筋がぞくっと仰け反った。
波江は一瞬生じたその隙を逃すことなく、俺の敏感な腰周りを怪しげな手つきで撫でていく。

「ひっ!や、めてよ…だめ、だってぇ…!」

「嘘。本当は気持ちいいくせに」

鼻で笑う波江にぎょっとして反射的に見下ろした股間は、既に臨戦態勢に出来上がっていた。
どうやらシズちゃんがこの身体にもたらした弊害は、俺が自分で思っているよりも随分と甚大であるらしい。




20101114


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