犯人を捜せ!



18000打、月神様へ!



「なんかさぁ、最近俺のパンツが日に日に減っていってる気がするんだよねぇ」

「…は?」

わけが分からず目を瞠れば、臨也の野郎は「ね、困っちゃうでしょ?」と肩をすくめて見せる。

「最初は風に飛ばされたのかと思ってたんだけど、腹壊したときに朝5枚干したパンツが1枚になってるのには本気でビビッちゃってね。波江さんに聞いたら、アンタの染み付きパンツ欲しいやつなんかいるわけないって言い張るしさぁ」

爪楊枝で歯を掃除しながらあっけらかんと話す臨也ではあったが、念のため、ここはプライベート空間ではない。
ロシア寿司の店主は若干眉間に皺を寄せつつもポーカーフェイス。サイモンもいつも通りキテレツな日本語を吐きながらテーブル席を行ったり来たりしているが、客の中にはチラチラとこちらを盗み見るものもいる。

「おい、お前もうちょっと声を抑え…」

「ねえシズちゃん、ホントに男のパンツって盗まれたりすると思う?」

「いや、そんなこと俺に聞かれても」

「だよねえ。シズちゃんなら生の俺をいくらでも楽しめるから必要ないもんね」

「っ、」

俺はうっかり噴きそうになり、反射的に口を押さえた。

「ぶっは!!」

…はずなのだが、何故か本当に噴き出したような音が背後から聞こえた。
俺と臨也は何事かと振り返ってみたが、後ろのボックス席には誰もいない。食べかけの寿司だけが淋しくテーブルに並んでいる。

「あれ、っかしーな…――まあいいや。おーいサイモン、お茶頂戴ー!」

臨也は特に気にした様子もなく、奥の席で注文をとっていた大男に声をかける。

「オー臨也ー。パンツ盗まれた聞いたヨー!」

少ししてからやってきたサイモンは、相変わらずニコニコしながら二つの湯のみにお茶を注ぐ。

「や、声でかすぎ…」

「そうそう、ホントすごい売れ行きなんだよ俺の。どうしたらいいと思う?」

「エッチなドロボーは現行犯でムッツリ逮捕ヨ!コレ常識!」







「…で、何でこうなった」

「何でって。シズちゃんはパンツ泥棒を捕まえたくないの?」

夕刻の暗闇の中、くぐもった不満そうな声が囁く。

「いや、そりゃあ…」

俺だってまあ多少は気にはなるし嫌だとも思うが、だからって何でベランダのこの狭い物置の中に隠れなきゃならない?
真夏の密閉空間はただ暑いなんてもんじゃない。蒸し風呂というより沸騰した鍋の中みたいだ。しかも隣にぺったり臨也が引っ付いていやがるから息苦しさにも拍車がかかっている。

「うふふ…盗まれるかなあパンツ!」

「何ワクワクしてんだ。っていうかぶっちゃけ5枚も干す意味あったのかよ?」

「え、だって犯人は一人とは限らないでしょ?」

「てめえのパンツなんざ欲しがる奴がそう何人もいると思えないんだが」

「わかんないよ?俺、超セクシーだから」

「……」

「けどこれでさ、もし知り合いとかが犯人だったら笑えないよねぇ!まあ波江さんは無いかな、重度のブラコンだし。正臣くんはともかく帝人くんもなさそうだ。妹達の嫌がらせっていう筋も考えられなくはない。
あ、そうだ!もし盗まれなかったらシズちゃんにも一枚あげるね!どれがいい?赤、白、ハート、ドットとか色々…」

――ゴソっ。

「おい、なんか今物音しなかったか?」

俺が臨也の肩に手を置きながら小声で言うと、ビクンと身体が跳ねる。

「え、マジ!?」

「ん…ほら、またしたぞ」

今度は間違いない。にわかに人声とコツコツいう足音が聞こえてきた。この物置のすぐ近くだ。

「わ、ホントに来るなんて…どうしよう!」

「何ビビッてんだ」

「だって、だって…!」

「まあいい。てめえは黙ってろ」

俺は四角くくり抜かれた物置の格子窓からパンツのかかった物干し竿を覗き込み、そこに現れた人物に目を瞠った。


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