寝た子を起こすな
※ショタ臨也
ある朝のことだ。俺が目覚めるとベッド脇に巨大な箱が置いてあった。
「え?ナニコレ?え?」
瞼をこすりながら何度も事実を確認する。
どこから来たのかは不明。リボンと水色の包装紙で綺麗にラッピングされているようだが、なんせサイズが半端なくデカい。
寝巻きのままベッドから下りて横からじっと覗き込むと、何となく生き物の気配がするような、しないような。――ああめんどくせえ。誰だこんなもん置きやがったのは。
開けない方がいいような気配がプンプンしていたが、放置するのもアレなので渋々開けてみることにした。
丁寧にテープを剥がすのは俺の性格上困難を極めたので、一気に包装紙を破いて蓋を取ると――
「っはよー!シズちゃ…」
俺は開けかけた蓋を反射的にぼすんと元の位置に戻した。ついでにその上に腰掛け、ちょっとやそっとでは開かないようにする。
内部からはもがーもがーとわめく篭った声が聞こえ、それが内容物の異常性を顕著に示していた。
何なんだよ今の。
見覚えのありすぎるガキが入ってたような気がするが、とりあえず本気で意味がわからん。何が楽しくてこんな小スペースに敷き詰まってんだ。っていうかそもそも、俺の家にどうやって入り込んだのかも謎だ。
「ねーねーなんで閉めちゃうの!?ちょ、開けてよ俺窒息しちゃう!」
「やっぱてめえか!」
「ううっやばいよ、なんか苦しくなってきたんだけど!…ゲホ、ゲホゲホぉ!」
脳裏にふと子供の死体が思い浮かんだ。
「……チッ。ったく、仕方ねえな…」
舌打ちしつつも箱の蓋を取ってやると、中にはやっぱり隣ン家のクソガキが入っていた。
俺とは一回り近く歳が離れているにも関わらず、やたらと絡んでくる変な小学生だ。――しかも、
「わー、おっちゃんやっさしー!誕生日おめでとう!」
「おっちゃんじゃねぇ!ってか誕生日って何の話だコラぁ?」
早くも苛立ちを募らせながら、低い声で訊き返す。
臨也はニコリと笑った。性格さえ良かったら、それなりに人好きのする笑みで。
「あ、うん知ってるよ、今日がシズちゃんの誕生日じゃないのは。だって俺の誕生日だもん」
「あ゙?」
「シズちゃんも嬉しいでしょ?だから、ね?俺のこと祝ってよ。ラブラブしよ?」
「あ゙ぁあ?ふざけてんのかてめえ!」
「いや、だってシズちゃん俺のこと好きでしょ?っていうか全体的にショタコン?だってほら、2丁目の茜ちゃんとも仲良くしてるしね、きゃは☆――ってぎゃあ恐っ!ギブギブ!ベッド壊さないでってばぁ!」
ベッドの木枠を振り上げた俺にようやく危機感を抱いたのか、臨也の奴は慌てて箱から飛び出した。
そして――俺はその格好に釘付け。
「てめっ、ソレは…!」
「え?なーに?」
何と、ノミ蟲は小学生にあるまじきレース仕立ての薄い下着しか身に着けていなかったのだ。
「ん?ああ、コレいいでしょー?似合う?俺、超似合ってるよね!?」
無駄にコーディネートを感じさせる、上下対になったコーラルピンクの可憐な『女の子用』下着。
すらりとしつつも案外柔らかそうな白い脚が際どい形状をしたショーツから伸び、ご丁寧に無い胸を覆い隠すブラまである。股間のこんもりした膨らみさえなかったら、ちょっと発育不良な少女で十分通るだろう。
しかも臨也は少なからず自分に酔っているようで、その場で自慢げにくるくる回転していやがる。
「何だよこのキチガイ!死ね!」
「もぉ、んなこと言ってシズちゃん、ホントはちょっとドキムネしてない?いいんだよー触っても。シズちゃんがショタコンなのは調査済みだからね!」
「何の調査だよボケ!」
「あ、そうそうシズちゃん!俺ケーキも持ってきたんだよ!優しい?優しいよね!?」
――ったく、大人を何だと思ってやがる。
俺の話なんか全く聞く気のなさそうなノミ蟲は、先程の箱の中に手を突っ込んで別の小さな箱を取り出してきた。
蓋を取ると、若干ひしゃげてはいるがごく普通の苺のホールケーキが現れる。
しかし唯一違和感を覚える点が一つ。上にちょこんと乗せられたチョコレートには何故か「シズちゃん誕生日おめでとう」と書かれている。
「おい、ちょっと待て。今日てめえの誕生日なんだろ?」
「いやさー。臨也くん誕生日おめでとうにしようと思ったんだけど、アルバイトの店員さんが知り合いのお兄ちゃんだったから流石に痛いかなーと思って!」
「…確かに痛いな。けどそれがなくても十分痛いぞお前」
顔を顰めて指摘したが、臨也は傷ついた素振りなど微塵も見せずに微笑んだ。
「大丈夫だよ!シズちゃんもすぐ痛い子にしてあげるからさ!」
「は?え!?ちょ、待っ――」
天使のように愛らしい笑顔に一瞬思考が停止し、それが命取りとなったようだ。
臨也は俺のズボンをぐいぐい引っ張りながら舌を突き出し、今度は小悪魔のように狡賢い笑みを浮かべる。
「うふふ…シズちゃんって甘いもの好きだったよねえ?」
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