妄想拡がり放題



「ねえねえ、ヒーター×冷蔵庫っていけると思わなーい?」

「うーん、僕的には冷蔵庫は電子レンジとじゃなきゃやだなー。あ、でも個人的なブームはホイップクリーム擬人化かな」

「はあ、何ソレ?物好きだねえ新羅は」

物好きなのはどっちだ、と傍で聞きながら俺は思う。
擬人化とかオンリーとかネコとかカテーテルとか。昼休みが始まってからこっち、友人達の会話の内容が全く理解できない。
なんでもここ最近、二人は共通の趣味を見つけたとかで、その手の話になるとやたらヒートアップしてキリがない。普段はここにいる門田も今日は体育祭の打ち合わせとやらでいないし、これじゃあまるで宇宙人の群れに放り込まれた気分だ。とりあえずなんか面白くねえ。

「なあ…ちょっといいか?」

俺は弁当箱の蓋を閉じ、箸を片付けながら口を開いた。

「“×”ってそもそも何だ?」

「えっ…!?」

二人は俺の予想を超える異様な慌てぶりを見せた。
新羅は一瞬咀嚼を停止し、臨也の野郎は引きつった表情で目を瞠ったかと思えばすぐにとってつけたような笑みへと塗り替える。

「え…あ、あはは、ごめん。シズちゃんには分かんなかったよね」

「じゃあ静雄も混じれる話にしようよ。そうそう、昨日のWC決勝盛り上がったよねー」

「いや、だから“×”って何だって話だろうが」

さり気なく話題を変えようとした新羅の腕を掴み、にこりと笑顔を作る。

「い…痛ッ!痛いってば静雄ーッ」

「あ…、悪ィ」

俺が慌てて手を離すと、何故か困ったように視線を交わす二人。なんか――自分だけが除け者みたいに扱われてんのがやっぱムカつく。

「…分かったよ」

無言の会話の後、臨也が根負けしたように言った。

「あのねシズちゃん。俺一回しか言わないからよーく聞いてよ?」

「あ゙?」

握っていた箸箱が鋭い音を立てて折れ、新羅はびくりと肩を跳ねさせた。

「…。あ、うん静雄。“×”はつまり、攻めと受けのポジションを表しててね、」

「そんでね、受けが攻めに挿れるってわけ。――分かった?」

「挿れるって、何をだよ?」

「えー…っと」

「んー、ま、要はセックスだよ」

焦らされて苛立った俺の殺気に気付いたのか、新羅が急いで言葉を継ぐ。

「“×”の左側のキャラが右側のキャラに…。そんであわよくばラブっちゃうって寸法さ」

「はぁ?え、じゃあ、例えば俺とノミ蟲だったらシズ×ノミって感じになるのか?」

「? まあそういうことに…」

「ぶふーっ!!」

「!?!」

…一瞬、何が起きたのか解らなかった。
その直前に呆けたような臨也の面がこっちをガン見していたことは確かだ。
それから、視界をぱあっと何かが埋め尽くして――
えっとそれから――

「わわ、臨也しっかり!」

放心状態で椅子からずり落ちかけた臨也の上体を、新羅が慌てて抱き起こしている。
ぽとり、ぽとり。
二人を眺める俺の顔面からは生ぬるい液体が滴ってぼたぼた落ちる。なぜ。疑問を感じて視線を下に向ければ制服のシャツがピンク色に染まっているではないか。
ぺろりと口周りを舐めると、舌先に甘ったるい風味が広がった。
臨也が先程まで飲んでいた苺牛乳の味だ。
――なんだ、これ。
プロセスを意識した途端、顔面がかあッと熱くなっていくのが分かった。いや何なんだろうこの現象。わけが…分からん。

「ごめんねシズちゃん。俺の所為で服汚れちゃったね」

申し訳なさそうな目をした臨也の口元からも、だらだらと“不透明の液体”が滴っている。
俺は何故かそこから目が離せなかった。
――こいつ、男のくせになんてエロい顔してんだ。犯すぞ。

「はい臨也、これで拭きなよ」

「お、新羅さんきゅー」

きゅきゅっと口周りの滴がふき取られると同時に、俺は現実に引き戻された。
――あれ?今一瞬、なんか凄いこと考えてなかったか、俺。
――いや気のせいじゃない。
――なんか、なんか下腹が変だ。

「!? …っ、」

気付けば俺は、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がっていた。

「ん? 静雄?」

「…悪い、ちょっとトイレ!」

きょとんとした顔で尋ねる新羅にそう告げるや否や、猛スピードで教室を飛び出した。





20100712
企画『あ、俺×××だから』様へ提出


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