迷惑千万:01



※72000打、茜雲様リク
※帝人と臨也が赤の他人設定



時折背後からの視線を感じる。
それは正臣や園原さんとの帰宅途中だったり、駅前のブックセンターだったりと様々だ。気まぐれにふっと現れてはまた忽然と消えてしまう。
最初は単なる思い過ごしだと高を括って軽くやり過ごそうとしていたが、被害はまもなく次の段階へとエスカレートした。
微かでありながらねっとりとまとわりつくような視線はいつしか手紙や無言電話といった具体的なものを折り混ぜるようになり、その頻度も徐々に増していった。
ポストに入れられた手紙の中には、「愛してる」だとか「キミと僕は結ばれる運命なんだ」などといった要領を得ない内容が延々と書き連ねられており、初めて見たときは気味悪さに吐いてしまった。
親友である正臣によれば「こういうのは警察に掛け合っても無駄」であるらしい。実際に殺傷事件でもあれば捜査に乗り出してくれるが、命に別状のない現段階ではまともに取り合ってくれないのだという。
そう考えれば打つ手はほとんどなかった。僕は「なるべく夜は出歩かないように」という正臣の忠告に従い、家の鍵もアパートの大家さんと交渉して二重にしてもらった。
しかし、ストーカーを本当の意味で回避するにはそんなものでは全然足りなかったのだ。
ある日いつものように僕が学校から帰宅すると、二つある鍵の内片方が開いていた。
出かけるときには必ず二つとも閉めるようにしている僕は、不審に感じてそろりとドアと開けた。パッと見回した限りでは、とりたてて部屋の中に異変はないようである。
単に鍵の掛け忘れだったのかと思いかけた矢先、僕は畳んで積み上げた敷布団の上にはらりと紙切れが落ちているのを見つけた。

(なんだろう、これ)

身を屈めて小さな紙片を取り上げた僕は、文面に目を通した瞬間石のように固まった。

“何故僕の気持ちに気付かないフリをしているの?”

間違いない。ストーカーは僕の無反応に痺れを切らし、日中にこの部屋に上がりこんできたのだ。
僕は恐怖で居てもたっても居られなくなり、早急に立ち上がると目を皿にして家中をくまなく探しまわった。運動した後でもないのに息苦しさを感じ、胸が動悸でばくばくいっている。
窓や扉は全て出かけたとき同様に閉められていたが、“彼”がここに滞在した形跡は他にも沢山残っていた。
まるで僕の反応を楽しむかのように、風呂場やトイレにわざとらしく点々と落とされた精液。
パソコン用のデスク上には隠し撮ったと思われる僕の写真が十数枚置かれていた。一緒に映っている正臣や園原さんの顔の部分だけマジックで黒く塗りつぶされている。
それらの証拠は一つの結論を突きつけていた。
つまり、今の僕に逃げ場はない。僕は常にストーカー男の手の届くところにいて、彼がその気になればいつでも僕をどうにだってできるのだ。気に入らなければ殺すことだって。
突如始まった携帯のバイブ音で僕は我に返った。
比較的早いこの時間帯にかけてくるのはクラスメイトの誰かであることが多いので、僕は番号が非通知であることも確かめずに通話ボタンを押した。

「はい、もしもし?」

喋ってから僕はしまったと後悔した。例によって受話器の向こう側で何秒にも渡る沈黙が続いたからである。

「………………俺、だけど」

「!」

「今、家の近くの公園にいる」

今回初めて耳にした男の声は想像より随分と若く、瑞々しさすら感じられるものだった。
“家”というのは間違いなく僕の住むこのアパートを指しているのだろう。

「これから出て来れる?」

「……あの、」

「嫌なら来なくてもいいけど」

挑みかけるような男の言葉は暗に「来なければこちらから行くぞ」と警告していた。
確かに、どの道今の僕がこの部屋に立てこもったところで到底安全であるとは言えない。気休め代わりのドアなんて、男のピッキング技術によって簡単に打ち破られてしまうだろうから。

「……分かりました。じゃあそこで待っててください」

そんなわけで、僕は頭の中でぐるぐると激しく思考を巡らせながら、渋々相手に許諾の意を示したのである。



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