平行線ではいられない



兄弟パロ
※静雄視点。帝←←←臨




とある休日の昼下がり、俺は生憎煙草を切らしていることに気付いた。
仕方がないと重い腰を上げ、寝ている親父のタスポを手に家を出てアパートの角を曲がる。それがそもそもの間違いであったらしく、実に気持ちの悪いものを見つけてしまった。

「アっだめだめ!それは駄目でしょ…!」

電柱の物陰に身を寄せる興奮気味のクラスメイト、折原臨也。
ああ、こんなことなら家でおとなしくしてればよかった。残念ながら煙草の自販機はまだもうちょっと先だ。
――仕方がない。顔見知りな手前まるっきり無視するのもアレなので、嫌々ながらも声をかける。

「よお。何やってんだ、ノミ蟲」

「あっおはようシズちゃ…あのね、あのね!ほらあそこ!酷いでしょ、俺の帝人がねっ!」

「みかど?」

切羽詰った口調のため何が言いたいのかよく分からない。何となく誰かを尾行しているらしいことは察しがついたが、どうでもいいから電柱に股間を擦り付けながら話をするのはやめてほしい。

「ほらっ、だから前にも話したじゃん、俺の弟。アーッ駄目!恋人繋ぎなんて、ああーっ!」

「何だよ。ただのガキのカップルじゃねえか」

臨也が指を咥えて凝視している道の前方には、中学生と思しき少年と少女が仲良く歩いていた。
あまり臨也に似ていない童顔の少年の方は、何度か写真を見せられたことがあるから何となく知っている。

「へえ…あの子、弟の彼女か?」

眼鏡の所為かパッと見は地味だが、お淑やかそうだし遠目にもスタイルがいいのが分かった。
うん、将来有望。臨也の弟のくせになかなかいい趣味してやがるなと感心していると、何故かキっと振り返り涙声で反論された。

「ちっ違うもん…!あんな奴、彼女じゃ、ないし」

よく分からない。可愛い弟に彼女ができたら、普通は嬉しいんじゃないだろうか。

「けどよぉ、普通に手ぇ繋いで歩いてんぞ?」

「あれは違う!何かの間違いなの!」

「何がまちが――あっ!」

「なになに、どうしたのシズちゃん!?」

「いや、なんかあいつら、ひと気のない公園の方に入ってったみたいだが…」

「えっ!」

臨也の野郎は慌てて前方に目を戻し、俺の言った通りの光景を見つけるともの凄いスピードで駆け出した。
木の生い茂っている公園の裏側に回るつもりなんだろう。俺もいい加減煙草を買いに行きたかったのだが、このまま放っておくのもやばそうな気がするので急いでその後を追いかけた。





『今日の園原さんの格好、すごく似合ってるよ。可愛い』

「可愛いだなんてっ…キャッ!」

「てめえのことじゃねえだろ、ノミ蟲」

冷静に指摘してやると、臨也はいつにも増してふてぶてしい顔で俺を睨んだ。

「るっさいなー。シズちゃんのくせに生意気なんだよ。あのね分かる?俺はね、こうやって脳内変換しないと生きてけないか弱い生き物なの」

「分かんねえよ。か弱いっつか頭が弱いだけだろうが」

少年少女が睦まじい会話をしている一方、臨也は今度はケヤキの木の幹に股間を擦りつけている。そりゃ電柱より表面はざらついてるだろうが、ぶっちゃけ何も変わってない。

(はあ…なんて痛い野郎だ)

こいつの弟だって、自分たちの座っているベンチのほんの数十メートル後ろにこんな気持ち悪い変態がいるだなんて、夢にも思わないことだろう。
まあ言ってしまえば、こんな男にハラハラしながら横から見ている俺も相当にイカレている。

「帝人ぉ…はァあ…やん、俺照れちゃうぅ」

「けっ、てめえなんざさっさと逮捕されちまえばいいのに」

「何か言った?十文字以内で説明し…」

「ブラコン」

「ぐすっ……昔はね、もっといい子だったんだよ。お兄ちゃん大好きって言ってくれたのにさ」

「それいつの話だ」

「6歳だったかな」

「はあ…。お前なあ、いい加減弟離れしろよ」

「なっ――バカ!できるわけないでしょ、そんな……」

臨也は涙混じりにそこまで言いかけて、ごくりと息をのんだ。



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