曖昧な声と泳いだ目と掴んだ手と
※流血注意
いきなり、わけが分からなかった。
俺がいつも通り人間観察を終えて自分のマンションに帰ると、そこに潜んでいた誰かに襲いかかられたのだ。あんまり唐突なことでナイフを繰り出す暇もなかった。
ぬっ…と首の辺りに這わせられる手――、
「臨也さん…また静雄さんと仲良くしてたでしょ」
低められた鋭い囁きから相手を特定した俺は、驚愕に目を丸くする。
「帝人…くん?えっと…どうして、こんなことを――?」
少年は問いには答えず、強引に俺の口唇をこじ開けて舌を割り込ませてきた。
同時に何かがザラザラしたものが押し付けられる。
固形物――多分、錠剤のようなもの。
無論飲み込んでしまえばろくなことはないと判ってはいたが、かと言って拒み続けられるほど息がもつはずもない。ごくり、と喉が異物を嚥下する音を確認した瞬間、彼が少し笑ったような気配がした。
「! ぅ、あぁあ……あ、ン…」
――熱い、何かがこみ上げてくる。
「即効性の媚薬。効果てき面みたいですね」
「やだ…、あ……ひぅん、」
こんなの、裏の仕事ですら数度見たことがある程度だ。素人知識で使用するには危険すぎる代物じゃないのなんて言っても、今更どうしようもないことは分かっている。
まるで俺をあざ笑うかのように苦痛を増幅しながら、ぐらぐら揺さぶられる視界。どうやら帝人くんは俺を引きずってどこかへ連れて行くつもりらしい。
――ああ、多分ベッドなんだろうな。
帝人くんは見た目に反して嫉妬深い性質らしく、愛情確認と銘打って荒っぽいプレイを強要されることが過去にも何度かあった。
けれどそれでも、ここまで徹底されたのは初めてで。
「なにコレ…か、からだが、変…っあぁ、あ」
熱い、熱い。身体中が熱い。顔が、下肢が、焼けるように疼く下腹が俺の知覚の全てを滅茶苦茶にした。
唯一感じられるのは、帝人くんの冷たい手のひらだけ。
しかしそれすらも前触れなく離れていく。ゴロリ、とベッドの上に転がされたのが分かった。
間髪容れずして再度ひんやりした手で触れられたかと思えば、手荒な所作で衣服を剥かれる。ナイフの入ったコートを、シャツを、そして熱を抱き込むように絡みつくジーンズを。
「…ッ、ひゃぁあぁあ…!嫌だ、さわら、ないでぇ…っ」
脚の間に触れられただけで身体の芯からゾクゾクする感触が這い上がってくる。駄目、苦しい。変になりそう。
帝人くんの手が乗せられた下穿きはもうぐすぐずに湿っていて、下にずり下ろせばじっとりした液体が内腿に糸を引いた。
「あはは…もうこんなにして、臨也さんってばヤラシイじゃないですか…」
「あ、ぁぁあっ、ぃやぁ…!」
ぎちぎちに腫れ上がった先端の膨らみを軽く刺激されるだけで、イった。
それでも性器は萎えるということを知らない。
俺に覆いかぶさるように屈み込み、元の形を忘れてしまったかのように硬直を保ったソレにねっとりと舌を這わせながら、やがて帝人くんは後ろの窄みへと指を移動させていく。
「う、やだ…そこは駄目だって…、ひやぁ!」
――ジュプリ…
咄嗟に身体が拒絶を示し、気持ちの悪い異物感に顔を歪める。挿入が苦手な俺にとって、それは幾度繰り返しても慣れない行為だった。
「臨也さんの中、キツイですね…」
差し込まれた指は何かを求めるように胎内を行き来し、なかなか出て行ってくれない。恐らくそんな気などないだろう。俺は情けなくもただただ生理的な恐怖に圧されて冷や汗を浮かべ、それはぽたぽたと滴ってシーツに垂れた。
少し痛みがマシになった頃を見計らって指は二本に増やされ、俺の不安を増幅する。そう簡単には切れない媚薬の効果により下腹部に自身の熱を保ったまま、がくがくと震えた。
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