溺れゆく



「何もないところですけど、ゆっくりしていってくださいね」

前にも一度だけきたことがある帝人の部屋は、すっきりと片付いていて綺麗だった。
思春期の少年の割りに壁にポスターとかそういうのもなくて、エロ本が散らばってたりということもない。事前に来ると断りを入れていたわけでもなかったから、恐らくこれが普段の状態なのだろう。なんとも健全なことだ。

「へぇー…」

俺が関心しながらパソコン関連の雑誌をめくっている間に、帝人は手早く食事の用意をする。男の子とはいえ一人暮らしだからかそれなりに料理には慣れている様子だ。

「おまちどうさまです」

「へぇ、これ帝人君が作ったの?」

「ええ、まあ…」

ご飯と汁物と炒め物といったごく普通の食事だったが、普段レトルトで済ませることの多い自分にとってはなかなか画期的な代物である。俺が素直に驚くと、少年は照れたように笑った。

「じゃあ遠慮なく」

味は文句なしに美味かった。俺は帝人とたわいもない世間話をしながら、食事を進める。
――彼が影でニヤリと笑ったのにも気付かずに。





異変に気付いたのは食事が済んでしばらくしてからのことだった。
――あれ?ん?
下腹に妙なざわつきを覚えたのだ。最初は単にトイレに行きたくなったのかと思ったのだが、これがどうにも違うらしい。一人で焦っている間に、手にはじっとりと嫌な汗が滲む。何故だろう、部屋が妙に暑く感じられる。

「帝人くん、この部屋暑くない?」

「そうですか?」

共にテレビを見ていた少年は不思議そうに首をかしげる。
――やっぱり俺、熱でもあるのかな。
そわそわしながら時計を見ると既に9時を回っていた。調子も良くないことだしもう帰ったほうがいいかな。そう思いたって帝人に声をかける。

「じゃあ、俺はそろそろ――」

立ち上がろうとしたが、途中で動きを中断する。いや、正確には中断せざるを得なかった。
帝人が俺の腰を掴んでいたのだから。

「!?」

そして問題はそれだけじゃない。
触れられた箇所を中心として、電流のような衝撃が俺の身体を駆け抜けていったのだ。まるで吐精するときのように熱が中心に集まっていく感覚。耐え難い刺激に、力を失ってへなへなとその場にくず折れる。

「大丈夫ですか?臨也さん」

心配そうに覗き込んでくる帝人が潤んで見えた。目尻に浮かんだ涙をさっと拭いながら俺は何でもないと短く答える。
――身体が熱い。いや、正確には“ソコ”が熱い。おかしい、何故だ?そういう類のことなんて一つも考えなかったはずなのに。
俺の内心の葛藤などつゆ知らぬ帝人は、頬にそっと手のひらを当てる。

「うーん…熱はなさそうですけど」

「っ…ごめん、なんか俺おかしいみたい」

俺は慌てて彼から離れた。触れられただけで感じた事実はただただ俺を混乱させていく。
しかし帝人は言った。

「別に――おかしくなんかないですよ?」

「えっ…?」

尋ね返そうとしたときには既に遅い。一瞬見えた黒い微笑みはすぐに元の清らかなそれに戻り、そしてその二秒後には俺の視界はがらりと暗転していた。
唇に押し付けられる柔らかい感触。顎をこじ開けて入り込んでくる舌。上体がぐらりと傾いだと思えば、胸板にのしかかる肉体の重み。
そしてゆっくりと離れていく顔は、帝人のそれ。

「うっ――どうして」

「臨也さんって案外無防備なんですね」

てっきりウブだとばかり思っていた少年はクールな笑顔を見せた。
――どうして。どうして?
あたかも無害そうな帝人を見上げる俺の中には疑問ばかりがぐるぐると渦巻く。認めたくなかった。仮にも裏の情報屋気取りのこの俺が、一介の少年に薬を盛られたなんてこと――。

「そんな綺麗な顔なんだから、もっと注意した方がいいですよ?」

腰の上に座る彼が俺の上で喋るたびに振動が伝わり、俺の中心をおもむろに刺激する。体内を巡る異物の所為なのか羞恥のためなのか、息遣いが荒くなる。
帝人はそんな俺を満足そうに見つめた後、黒いシャツを捲り上げた。外気に触れて芯を持つ二つの突起。それをくりくりと捻るように揉みあげられれば、どんなにこらえようと声を抑えることはできない。

「ふはぁっ…!み、みか…ど、くん」

「気持ちいいですか?」

「なっ、ち、違っ…!」

「本当に?」

帝人は疑うように目を細めた後、右胸を刺激していた手を離して下へ持っていく。ズボンの中のそれは硬度を増し、外からでも誤魔化し切れないほどに立ち上がっていた。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -