マッサージって効果あるの?




「…あーあ、臨也さんが女の子だったらよかったのに」

「え。今…何て!?」

言葉に大した意味はない。暇を持て余して何となく口にしただけだったのに、当の臨也さんはガバッと身体を起こし妙な具合に食いついてきた。
いやね、と続けながら僕はそれまで眺めていたアルバムから顔を上げる。

「もし臨也さんが女の子だったら、九瑠璃ちゃんみたいなボインになってたかもしれないじゃないですか」

「…なんだ、そんな理由かよ。ていうか君さあ、その童顔でボインとか言っちゃ駄目、犯罪級に酷いから」

「あれ、そうですか」

何故か異様にげんなりしてソファに沈み込む臨也さんを視界の隅に押しやりながら、僕は再度アルバムに目を戻す。
――臨也さん家の家族写真。
でも、あれ?よく見たら妹の舞流ちゃんの方は結構貧乳だな。あの子たち双子のはずなのに、なんであんなに体形が違うんだろう。
うーん、ひょっとしてあれか?マッサージ?牛乳つけて揉んだら本当に大きくなるとか?――よし、試してみよう。

「…悪かったな、女じゃなくて」

「? あれ、ひょっとして怒ってます?」

「怒るもなにも、元が男なんだからしょうがないだろう」

「ウーン、それもそうですね」

僕は適当に相槌を打ちながらパタンとページを閉じ、ソファにぐだっている臨也さんの元へ向かう。丁度いい具合にテーブルの上に放置されていた飲みかけの牛乳の入ったコップを手に取り、寝そべる頭の横に立ってにっこりと笑いかけた。

「つけて揉んだら大きくなるでしょうか?」

「は?…揉むって、何を、」

身体にかけた黒いコートから顔を半分出した臨也さんは、おもむろに眉をひそめて問い返す。

「胸」

「……誰の」

「ウフフ、やだなあ。臨也さんのに決まってるじゃないですかぁ」

「そうかなるほど。君は 変 態 か」

「いえ、あなたに惚れてる時点で変態であるという事象は確定してると思いますが」

「んあ…?まあ、それもそうだな」

なーんて嫌味にも気付かず妙な具合に納得しながら、彼は再びコートを目深に被ろうとする。なんでも昨日は完徹だったらしいから、いくら怪物じみた彼とて流石に疲れているのだろう。
しかし――彼は途中で思い直したかのようにコートをずり下げると、チラっと僕を見てから小声で付け加えた。



「あのさ…、生まれ変わったら女の子になってあげてもいいよ?」



「! 臨也さん…あなたという人は」

無意識のうちに身体がプルプルと震えた。
――そうか。疲れているふうを装っておきながら、この人まさか計算しているのか。そうなのか。見た目はオジサン(お兄さんともいう)、中身は純情乙女と見せかけて僕の萌えセンサーに激しく訴えかけているのか。なあどうなんだ、ええ?
だがしかし、臨也さんは何故か、まるで怪しいものでも見るようにこちらを見上げてくる。

「えーと、何?俺何か変なこと言った…?」

イエス。僕は深々と頷いた。

「…てなわけでやっぱりマッサージタァァァイム!」

「へ!?いや、だからなんでそうなるんだ!――って、ヒィッ!?わ、あひィっきもちッ、ってひ、ひ、ひやャアアァア!」




20100526


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