無痛な孤独を孕む



ザアザアと雨の降る音が響いていた。
ザアザア、ザアザア。それ以外の音はない。――静寂。動く物の一切ないこのほの暗い地下室の中で、俺はひたすらに“彼”の訪れを待つ。
彼の他には誰も居ない。誰もやってはこない。なぜか?
それは知らないからだ。誰も俺の居場所を知らされていないし、かと言ってこちらから助けを求める術ももうない。
一切の通信手段を絶たれ、郊外の廃屋に監禁されて早2ヶ月。精神の限界は思いの外早くやってきた。
寝て、最低限の食事をして、それ以外の時間はただぼんやりと虚空を眺めて過ごすしかない。見慣れた壁。一切変化のない生活はただ退屈なんてもんじゃない。――死。そう、今のこの状態は死んでいるのと同じだ。
そして今や自分が死んでいないことを確認するすべは、一つしかない。

だから、俺は今日も“彼”を待つ。





コツ、コツと階段を下ってくる規則的な靴音を耳にし、俺はゆっくりと重い身体を起こした。

「…臨也さん?」

重厚な鉄の扉ごしに彼の声が届く。ああ、やっと来た。今では俺の世界にたった一人しかいなくなってしまった、貴重な人間――竜ヶ峰帝人。
少年は扉をほんの少し押し開け、するりと部屋のこちら側に滑り込む。俺は床に這い蹲ったまま目を細めて逆光に浮かび上がる影を見上げた。君が今どんな顔をしているのか俺には分かるよ、
――ゾクゾクしているんだろう?

「調子はどうです?」

「……」

彼の言葉に答えようが答えまいが、最終的な結果が同じなのは知っていた。そして案の定帝人はクスクスと愉しげに笑いながら、特に躊躇もなく俺の上に体重を預ける。手足をつなぎ留める鎖が擦れてジャラリと無情な音を立てた。

「っふふ、僕のこと待ってたんでしょう?」

「違っ――」

不気味な薄ら笑いを刻んだ帝人の顔が近づいてきて、荒っぽく唇に吸い付いてくる。

「!――ッ」

ガリリ。容赦なく舌を噛まれて俺は反射的に身を引いた。
しかしどう足掻いても雁字搦めの腕の中から逃れることはできない。それはひとえに四肢がガッチリと拘束されていることもあるが――長きに渡る監禁生活により相当に筋力が落ちていた。

「綺麗ですよ、臨也さん」

なにさ、全然嬉しくない。口の中にしょっぱい鉄の味が広がっていく間にも彼が愉しげに笑っているから、余計に惨めな気分にさせられる。
――君は何が嬉しいの。ねえ、何でこんなことするのさ。
冷たい目をした帝人が衣服を剥いていくのを見つめていたら、認めたくないけど悔しさと恐怖で涙が滲んだ。ねえお願い、俺は痛いのは嫌いだ。そこをしつこく弄られた後はいつももの凄く痛む。本当だ、本当に立てないくらいに痛むんだよ。
ぐい、と指が一気に2本がねじ込まれる。それが互いに競うように腹の中を執拗にかき回しながら奥へ奥へと進んでいくうちに、摩擦で胎内の粘膜が切れて鋭い痛みが走った。

「ふはッ…んなッ、ひやぁあッッ!」

やめて。お願いだやめてくれ。俺は痛みの恐怖に耐え切れずに泣き叫んだ。
そう。指が済んだら次はもっと恐ろしいモノが挿れられるのが分かっているから。だから本当に怖いんだ、だから。

「ひィッやめて…お願い、だ、」

「ふふふ…もう、臨也さんってば何言ってるんですか…?」

帝人は首をかしげ、さもおかしそうに笑う。


「僕だって人間ですよ?あなたが愛してやまない人間。ね?そうでしょう?」


「……う、」

違う、と言いたかった。俺は人間で遊ぶのが好きなだけだ。遊ばれるのなんか大嫌い、お前なんか嫌いだ。嫌い嫌い嫌い、だけど今更何を言おうが、自分にはどうにもできないことをまざまざと思い出す。

「僕がここに来なければ、あなたは人に餓えて狂ってしまうでしょうね」

プライドよりも苦痛よりも。ただその言葉が真実だと分かっていたから、俺はまたさめざめと涙を流しながら「どうか捨てないでください」と頭を下げた。





20100524
企画『ブルータル』様提出



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