思惑失敗、形勢逆転



「帝、人くーん!」

「あれ…どうかしましたか?」

僕がパソコンから目を離すと、いつの間に入り込んできたのだろう、珍しく機嫌の良さそうな臨也さんが合鍵をぶらつかせながら背後に立っていた。
――おかしいな、今日の池袋は平和なはずなのに。

「チャット中?」

「――そうですよ。臨也さんこそ、今日は入室してこないなあと思ったらうちに向かってたんですね」

「あ、いや、ちょっと君にコレをと思ってね」

そう言いながら彼は小脇に抱えた紙袋を示した。――何か服のようなものが入っているらしい。
僕は椅子の向きをくるりと変え、改めて臨也さんと向き合った。

「何ですか、それ」

「セーラー服」

特にどこの制服というわけでもない一般的な形のそれを取り出しながら、彼は言った。紺色で至って上品なデザインなのだが、折原臨也が持っているというだけでものすごく不審に見える。

「ふーん…あ、もしかして妹さんからパクって来たんですか?わざわざご苦労様です」

「え?言っとくけど君が着るんだよ…?」

僕が慇懃に礼を言うと、臨也さんは不思議そうに首を傾げる。ああ、面白い。彼には“そんな考え”すら思いつかないんだ。

「おやおや面白いご冗談を。当然、臨也さんが着るんでしょう?」

「なーに言ってんのさ。君の方が可愛いじゃない」

「いえ〜けどでも、甘楽さんは女性ですからねえ」

「あっ…わあッ!」

僕は椅子から背を離すと、ガツンと臨也さんの身体にアタックして押し倒した。
床に手をついた姿勢のままの相手の四肢を即座に拘束し、何の前置きもなく唇を奪う。

「んっ…んンッ……」

一気に力の抜けた手から、服を抜き取る。

「あっ、ちょっ!」

「これ…着てくれますよねえ臨也さん?」

――ニヤリ。
ズボンに突っ込んだ手にギリリと圧力をかけると、彼は顔を真っ赤にしながらジタバタもがいた。軽く冷や汗が出ている。

「着たいですよね?」

「…っ、わ、分かった、着る!着るからァッ!」

「分かってくれて嬉しいです。愛してますよ臨也さん」





太郎【すいません、ちょっと落ちてました】

セットン【ああ、やっぱりw】

――甘楽さんが入室されました

甘楽【こんばんはーっ!甘楽さんですよう!】

セットン【ばんわー】

バキュラ【どもー】

罪歌【こんばんは】

太郎【ちなみに甘楽さん、今ウチに来てるんですよ】

バキュラ【まじすかw】

セットン【へえー、リア友だったんですかぁ】

甘楽【まあそんな感じですけどね。太郎さんってば、やらしいことばっかしてくるんですよ!】

太郎【やだなあ、してませんってw】

罪歌【こいびとさんですか】

甘楽【それは秘密ですよう☆キャーっ!】

太郎【甘楽さん…?(怒)】





「う…だから、やめろって」

俺は抗議しながら、捲れたスカートの間を這い回る手を叱咤するように睨みつける。
えーつまるところ現在、俺と帝人は二人仲良く(?)隣り合ってノートパソコンを広げながら、例のチャットに興じているといった状況である。

「ホントは嬉しいくせに」

帝人はそう言ってクツクツと笑い、股の狭間で透明な露を溢れさせているソレをぎゅっと握りしめた。途端電流のような快感の波が脳内を染め上げ、俺は溶けていく理性をぼんやりする頭で見送ることしかできなくなる。
蜜を浴びて濡れた手が、ただ楽しげにくるくると中心を弄ぶ。

「あっ、あアァ…!」

「ほらほら、キーを打つ手が止まってますよ」

笑いかけてくる帝人の目はやけに鋭く、俺は焦燥に駆られて已む無くキーボードを叩く。
その間も身体を弄る手は止まることなく俺の自身をすき上げる。――ぬちゃり。湿った音は別方面から脳を刺激して酷く卑猥な気分にさせる。思考力が急速に駄目になっていくのがはっきりと分かった。

「甘楽さんったらどうしたんですか?文章が可笑しくなってますよ」

「ッ、だって、君がそんな」

震える己の指がたたき出すのは、今のこの状況とは全くことなる話題。はっきり言ってどうでもいい。内容が全く頭に入ってこないのだから。

「え?僕の手が何してるって?」

「っう……ひあァっ…!」

強すぎる刺激。
それが与えられた次の瞬間、中心から濃い白濁が吐き出され、無様にスカートと椅子を汚した。

「あれま、ホントはしたない女の子ですね」

「…っ、俺は女じゃない!」

いささか大き過ぎる声が出た。いい加減言いつけ通りにキーを叩くのを諦めた俺は、憤怒を隠すことなく本気で帝人を睨みつけた。
けれど、帝人がそれを気にしたふうはない。

「いいじゃないですか。臨也さん、綺麗なんだから」

彼は当然のようにそう言いながら俺の頬に口付けを落とす。それからまたすぐにチャットに注意を向ける。
俺は何なんだとばかりに頬を摩りながら呟いた。

「…変な奴」

「…何か言いました?」

するとすかさずモニターから目を離す帝人。こいつ――地獄耳だ。

「別に何でもないですよう!…って、あ゙」

「あっちゃー、ネカマ口調になってますよ?」

少年は決定的な間違いを指摘しつつ呆れたように首を振り、

「これはしっかり躾しないと駄目ですね」

「えっなんで!?」

そうして変態ちっくなプレイは夜な夜な続行するのだった。




20100523


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