支配することでしか、僕は
「…臨也さん?」
僕が名を呼んで手を伸ばすと、彼は本能的にびくっと首を引こうとした。絡まった鎖が引かれ、歪に捩れてギチギチと窮屈な音を立てる。
僕はそんな無様な様態を見下ろし、ニヤリと口角をつり上げて笑う。
――逃がさないよ?
指先で滑らかな白い皮膚に触れる。ああ、綺麗。どうしてこんなに綺麗なのだろう。
「ッ…帝人くん、」
ほらね。嫌悪はしているけれど、やっぱり少し感じている。そのくせに中々に諦めの悪い臨也さんは、どことなく反抗的な目で僕を見上げる。
「力じゃ…俺は落とせないよ」
シャツを捲り上げる“他人”の手を気にするふうでもなく彼は言った。――いや、実際のところ、努めて気にしないようにしているのだろうと僕は思った。
「…そうですか?僕にはあなたが自分でそう言い聞かせようとしてるようにしか見えませんけど」
「俺は、こういうのは好きじゃないんだ」
「そうですか?僕は好きですよ」
――んなこと知るか。
腹立たしげな目をした臨也さんはそう言わんばかりにふいと顔を背け、拒絶の意思を示さんと足掻く。しかし僕からしてみればそんな仕草が逆に起爆剤になるわけで。
「ねえ、臨也さん。あなたは他人で弄ぶのが好きだけれど、」
囁きかけながら、柔らかい皮膚を腹部から胸に向かってなで上げる。指が胸の突起に達すると彼はふうと苦しげな吐息を漏らす。
「弄ばれるのには慣れていませんね」
「そんなことがいいたいのか…!」
紅い瞳の奥に犇くのは――恥じらいと怒り。
「ふふ、だって面白いじゃないですか…あなたが、こんなふうに」
寒さと刺激で芯を持つそれをクイと捻る。
「あッ……やめっ!」
「冷酷な情報屋が、普通の人間みたいな反応を示すのが面白くて仕方ないんです」
ね?と首を傾げ薄く笑いかけると、臨也さんは恨めしげに僕を睨んだ。
「俺だって人間だよ」
「――そうでしょうか?」
馬乗りになった身を屈め、そっと白い頬に手を添える。
「ちょ、何――ッ!」
そのまま顔を寄せると素早く首を傾け、彼の湿った感触を愉しんだ。
耳に絡みつく、ぴちゃぴちゃと卑猥な水音。中は少しだけ温度が低く、彼の舌は緊張したように固まっていた。
僕は自分のでその裏を解すようにしっとりと舐め上げてから、強く吸う。一瞬息を詰まらせて唸る声がした。
口内を犯しながら目線を上げれば、彼が大きく目を見開いているのが見えた。――ああ、驚いているんだ。この人でもこんなことで驚くんだなあと改めて感動する。
「あなたほど面白い人はいないと思いますよ」
十分に貪り終えてからゆっくりと顔を上げる。
「あ、臨也さん」
「……ッ」
口端から垂れた唾液を拭ってやろうと手を伸ばしたが、素っ気なく顔を背けられてしまった。
――まあ、いいか。そのままのほうが幾分かエロティックに見えるから。
頭の中でそんなことを考えていると、臨也さんはボソッと吐き捨てるように言う。
「…馬鹿に、してるのか」
「え?違いますよ」
にっこりと顔を綻ばせる。
「興味があるんです」
――人間を愛するあなたを愛したいんです。
僕はそんな自らの浅ましい願望を語りながら、まだ手をつけていない美しい下肢にそっと指を這わせていった。
彼が快感に溺れるまで、あとXXX秒――
20100522
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