rape victim.2



「!――!?」

のんびりと物思いに耽っていた矢先、突然声をかけられた俺は死ぬほど驚いて飛び上がった。
――誰、誰、この声は誰だ!?
すぐ右側にある独房には帝人くんが入っており、左は空き部屋となっている。誰の声であるかなんて深く考えるまでもなく明らかだった。

「みっ、帝人くん…?」

「すいません折原さん。ちょっと背中が痒くなっちゃって…寝苦しいんです。手を貸してもらえませんか?」

薄暗がりの中帝人くんが円らな目をパチパチしながらこちらを見つめているのが分かり、俺の体温は俄然急上昇した。
――背中をかく?俺が、彼の背中にタッチしてもいいってこと?
ああ、一介の監守である俺ごとき、なんと恐れ多い大役を仰せつかってしまったのだろうか。いやけれどよく考えればこれは限りなく名誉なことだ。帝人くんの身体に触れることができるのははっきり言って嬉しい。嬉しすぎる。
しかし自分が手放しで喜んでいるなんてことが帝人くんにバレてはいけない。

「もう、仕方ないなあ。特別に俺がかいてあげるよ。ちょっとだけだからね」

すんでのところで自重した俺はわざと顔をしかめて面倒臭がるような声を出し、のらりくらりとした緩慢な動作で彼の方へ近づいていった。

「いいんですか?どうもすみません…!」

帝人くんは頑丈な鉄格子の向こうで申し訳なさそうに頭を下げてから、いそいそとこちら側に背を向けた。服の上からでも明らかな、余計な脂肪や筋肉の一切ついていない華奢な身体のラインが目に毒だ。俺は彼の背後でごくりと息を飲んだ。

「えーっと…ん。で、どの辺だっけ?」

指が鉄格子をすり抜け、無防備な帝人くんの身体に伸びる。手を出すつもりはない。しかし自分でもその指先がまるで厭らしいもののような気がしてきて、ほんの一瞬躊躇われてしまう。

「あ、肩甲骨の間あたりです。なんか僕、昔から身体固くって…」

帝人くんは恥ずかしそうに苦笑しながら俺の手を取った。「ここです」と説明してくれるつもりなのだろう。ああ、顔が熱い。ついに憧れの少年と直接手を繋いでしまったという、たったそれだけの事実が俺を激しく動揺させた。
しかし、次に帝人くんの口から発せられたのはそんな平和的な言葉ではなく、俺が予想だにしないものであった。

「――調子、乗らないでくれるかな」

「え…、」

「男汁の臭いプンプンさせてんの、丸分かりなんだよ。ねえ、折原さん」

瞠目する視線の先に信じられないほど冷たい目つきをした少年がいた。帝人くんが立っていた場所に。いや、決して別人にすり替わったわけではない。

「そういう目で見られんの、イライラするんだけど」

「ちょ、帝人く……ぁ、イっ、…がぁあ…!」

突然走った激痛に俺は身もだえする。恐ろしいことに、帝人くんは俺の腕を鉄格子に押し付け、てこの原理を用いてポキンと折ったのである。終始表情を変えぬまま、一切の躊躇いすら感じられなかった。

「オナニーなんてできないようにしてあげる…。ねえ嬉しいでしょ、動物の本能なんて気持ち悪いだけだもの」

帝人くんは目を細めてとんでもないことを口にしながら、こちらに向かってぬっと手を伸ばしてきた。
――ヤバい、殺られる。
よもや反対の手も折られるかもしれないと恐れを為した俺は、咄嗟に右手に持っていたライトを相手に投げつけ、掴まれていた手を無理矢理振りほどいた。激痛に涙が溢れ、歯を食い縛って耐えた。闇の奥からゴトっという鈍い音と帝人くんのうめき声が重なって聞こえたような気がしたが、今の俺に詳細を確かめる余裕などあろうはずもない。ふと我に返れば、脇目もふらず廊下を一直線に駆け出していた。




20110216
全力で土下座します


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