涼しくなる方法
「あ゙ー!暑いいいいいー」
「…そう言う臨也さんの方がよっぽど暑苦しいです」
「だーすーげーててててて。死ぃぬぬぬぬぬ!」
僕は宿題をする手を止めて背後をちらりと振り返り、扇風機の前を独占している黒い背中を睨みつけた。
――ああ、ウザい。ウザすぎる。本当に死ねばいいのに。
夏休みが始まって早2週間が過ぎた。今年こそは計画的に宿題を終わらせてしまおうと考えていた僕は、本日もちゃっちゃとノルマを完遂すべくしてテキストを開いたのだが、そこへ予期せぬ邪魔が現れたのだ。
もう邪魔も邪魔、究極的に邪魔。キングオブアルティメッツ邪魔。
だっていい年してアレだよ?一台しかない扇風機の前に陣取って「あああああ」とか変な声出すし、買っておいたハーゲンダッツは勝手に食べるし、しかも完食した後で俺はクッキークリームよりストロベリー派だとか言い出すし、しかも。
「暑いと何が困るって、蒸れるんだよねえ。あー暑い暑い、脱いでもいい?」
全体的に文句が多い。
「え、あーそうですね。その暑苦しいコートいつ脱ぐんだろうと僕も思ってました」
「じゃあちょっと失礼するよ」
「あ、ハンガーならそっちの押入れに…臨也さん!!」
ズボンとパンツを一緒くたにずり下げようとしている男に気付き、僕は叫んだ。
「何しようとしてるんですか!」
「何って…脱いでるわけだけど?キミがいいって言ったからさ」
「いやいやいや常識的に考えてくださいよ!大の大人が有り得ないですよそんなの!」
「あは、もしかして俺のボディに嫉妬…っうわ!!」
自分の中でブチンと何かが切れたのが分かった。
「もおおおおいいっ加減にしてください、ウザすぎです殺しますよいいんですか!?」
「え、え!?」
殺すという単語に静雄さんでも思い出したのだろうか。僕がシャーペン片手に椅子から立ち上がると、ゴトトンという焦った音を立てて臨也さんが後ずさった。
「うわああああ!」
「何で逃げるんですか?」
「あはは…ねえちょっと待って、話しあおうよ。そんなに言うなら脱がないけどでも分かって!俺こう見えて汗っかきなんだ。蒸れて痒くって死にそうなんだよ」
「ふうん」
「え、ふうんって、キミ…」
「そんなに暑いならこうすればいいじゃないですか」
「あひゃひゃひゃひゃあああー!っ、…やめて、やめてぇえっ!」
「えへへ、涼しいでしょ」
「ひっ!つめた…っアッ――!」
――アイスを買ったときについてきた保冷剤を入れてあげた。
何たる名案。僕って優しい。
それなのに何故か臨也さんがふひーふひーと豚みたいにうるさいので、僕は仕方なく彼をテレビ台にくくりつけることにした。
「…さて、と」
汗を拭いながら顔を上げた。
この人の股間も快適になったことだろうし、今日のノルマが終わるまでじっとしておいてもらおう。
20100812
イイコトした気でいる帝人様
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