息ができないくらいに
「…どうかしましたか?臨也さん」
帝人くんは不思議そうに首を傾げ、俺を見上げた。
気付かぬうちに少しぼーっとしてしまっていたらしい。
上目遣いに注がれる眼差し。少年の大きな黒目がちの瞳は小動物のように愛らしくて、思わず胸が高鳴った。ひょっとしたらこの鼓動すら丸聞こえなんじゃないか、そんな馬鹿な不安さえ覚えてしまう。
「や、何でもないよ」
何となく恥ずかしくなって目を逸らすと、帝人くんは俺の懐に入り込んでぎゅっと腕を掴んだ。俺より少しだけ高い体温が温かい。
すっと細められた瞳に青白い光が差し、さわやかな笑みを保った彼の声がワントーン低くなる。
「今…僕のこと考えましたね?」
「はは、キミに至ってはいささか自意識過剰じゃないかな。ねえ?」
「さて、どうでしょうか」
おどけたような小さな瞬きと同時に身体が寄せられ、唇を半ば奪うように口付けられた。
幼さを残す顔に似合わぬ、むさぼるような激しいキス。教えたわけじゃないのに、回数を重ねるごとにいつの間にかだんだんと上手くなって。
「っは…キミさぁ、最近俺に似てきたよね」
垂れた涎を手の甲で拭いながらヘラリと笑えば、帝人くんは奇妙な目で俺を見る。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味さ。人を見る目が鋭くなったっていうのかな。心に入り込むのが随分と上手くなったよねえ」
「変なこと言わないでください。僕は臨也さんみたいな悪巧みの権化とは違います」
「そ?けど…興味あるでしょ」
俺は笑顔をすうと引っ込めながら帝人くんの腕を取り、捲り上げた自分のシャツの中にそっと滑り込ませる。
布地の下、滑らかな肌の上を移動させ、まだ一度も触れさせたことのない部分に掌を押し付けてやる。ひんやりした空気と手の温度で、帝人くんの指先と密着した胸の突起が固く勃ちあがった。
「…っ、」
「触っていいんだよ…?」
驚いて反射的に手を奮わせた帝人くんを覗き込み、今度は安心させるように微笑んだ。
握った彼の腕を胸の上でさわさわと移動させていき――
「触って。キミにしてほしいから」
「…僕なんかでいいんですか?」
驚愕と羞恥に染まった表情が初々しくて、ふと昔が甦る。俺も数年前はこんなに純情だったのかなあ、なんて。
「はは、さっき言ったろ。いつの間にかキミってば、俺のこんな深い場所まで入り込んじゃってさ」
目を伏せる帝人くんに顔を寄せ、空いている方の手の指で若く瑞々しい唇に触れる。
「キミがいないと苦しい。キミの声を聞かないと胸が潰れそうになる。朝も昼も夜もいつだって帝人くん、キミの笑顔ばかり思い浮かべているんだ」
――だから、そう。
「俺はキミなしじゃ息もできない」
耳元で愛を囁く。
それを聞いた少年は嬉しそうに目を細め、ぞくぞくするほどに綺麗な笑みをその顔に刻んで見せた。
20100809
企画『悪戯キッス』様へ提出
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