入院のススメ



「…さん、臨也さん」

若い看護師に呼ばれて俺はハッと我に返った。
慌てて目線を下げれば、俺の脚の間に屈みこんで万全待機する竜ヶ峰帝人くんがうんざりしたようにこちらを見上げている。

「早く出してくださいよ、ここに。僕だって暇じゃないんですからね」

口を尖らせて言いながら、手にしたプラスチックのボトルをぷらぷらと振る。
彼が何をしろと急かしているのかというと――つまりは、排出だ。
俺は先月負った大怪我により目下のところ入院中で、両足と肩をがっちりと固定されていて自分一人では用すら足せない。
ゆえに毎回こうして看護師の誰かに手伝ってもらうことになるのだが、どうにも帝人くんが担当だと緊張してしまう。

「うーん…なんつーか、今シたい気分じゃないんだよね」

俺が既に何度か使った言い訳に逃げると、帝人くんは天使のように愛らしい童顔に微かな苛立ちを刻んだ。

「馬鹿なこと言ってないで出した方がいいですよ?夜中に呼んでも駆けつけてあげませんからね」

――不機嫌そうな顔も可愛らしいなあ。

「いや…はっ、そうだ!誰か別の人呼んできてよ。帝人くんも忙しいでしょ?」

「は?何言ってるんですか駄目ですよ。そんなことしたら婦長に僕がサボってると勘違いされちゃうでしょ」

ギロリと睨みつけられる。

「え、だってさ…、」

一向に用を足す気のない俺にだんだんと嫌気が差してきたのだろう、彼はむすりと怒ったように顔を歪ませた。

「あのねえ、臨也さんはそんなに僕の介護が嫌なんですか?」

「え!?いやっ…だ、断じてそんなことはっ!」

違う違うむしろその逆だと、俺は慌てて首を振った。
素っ気ないながらも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる可愛い帝人くん。その黒目勝ちな円らな瞳で股間を見られるだけで既に頭がぽうっとしてしまうほどなのに、見られながらその…放尿なんてできるはずがないじゃないか。
けれど次の瞬間、帝人くんは俺の股間に手を伸ばし肉棒をぎゅうと掴んでいた。

「仕方ない人ですね臨也さんは。できないなら僕がやってあげますよ」

「いッ!?」

帝人くんは白衣のポケットからひょろりと細長い綿棒を取り出すと、掴んだ肉棒の先端を引っ張って伸ばしながら鈴口に差込み始めた。
突然の抉るような、突き刺すような激しい痛みに俺はただ口をパクパクと開閉させる。

「ひっ!?ッ、いはッ、そんなの…はいらなっ」

――怖い、怖い怖い。誰か助けて。
痛みとも激しすぎるむず痒さともつかぬ未知の感覚に苛まれ、頭の中が真っ白になる。
綿棒の先は細い指に押し込まれてじりじりと中に埋まっていき、やがて棹全体がピンと張り詰める。

「ひ、ぁあ…!…やめ、て、おねが…」

「ふうん?そんなこと言って臨也さん、もしかして気持ちいいんじゃないですか?――勃起、しかけてますよ?」

白い綿棒が完全に尿道に収まったのを確認しながら、帝人くんはクスクスと楽しげな笑みをこぼす。
なぜこんなことをされるのか理解できない俺は息も絶え絶えになりながら、彼を見上げて必死に声を搾り出した。

「く……、みかどく…ん。コレ、出し…て」

「は?ちょっと、何を生意気な口を利いてるんですか?」

彼はすっと笑顔を引っ込めるとその場に立ち上がった。

「えっ…?――っはッ!」

股間に只ならぬ衝撃を受け本能的にギュッと目を瞑る。咄嗟のことで何が起きたのか分からなかった。涙に潤む目をかろうじてうっすら開けた瞬間には、もう次の一撃が踏み下ろされている。
――ガツン。

「っい!!……あ、ぅ…!」

「ほぉら、どうですか?もう出せそうですか?」

ぐり ぐりぐり
ぐりぐりぐりぐり ぐりぐりぐり
サンダルを履いたままの帝人くんの足が何度も振り下ろされては股間を圧迫し、容赦なく俺の息子を踏み潰している。

「っ…う……っはぅ…ぐあ、」

想像を絶する苦痛に唾を吐き、カッと目を見開いて腰を折った。
――痛い。痛い痛い痛い。
痛すぎて既にどこが痛いのかすら分からない。
けれど帝人くんは俺の反応など特に気にとめたふうもなく、残酷なその行為を執拗に繰り返す。――彼の口元は薄く笑っていた。

「ん?――ああ、こらこら。勃起させちゃ駄目でしょ?」

嗤う視線を追って自らのモノを目にした途端、俺は羞恥のあまり爆発しそうになった。






20100706


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