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ふんふんふーん、ふふーん!


私、今とても上機嫌です。何でかって?ふふん、それはねェ…上陸中だから!

久々の上陸、そんでもって結構栄えている島、無事愛刀もメンテナンスに出せるし、あとは食べ歩きもできる。それだけでここ最近のストレスもぜーんぶ吹っ飛ぶわけです。


「○」

『はい、何ですかいなペンギンさんやい』


ま、この買い出しを終えたら…ですけどね。ペンギンと共に買い出し中の私はさすがにスキップは控えました。

今は一応ハート海賊団の証であるジョリー・ロジャーの入ったツナギを着ているわけだし。それなりの態度をしているわけですな。


「この島では騒ぎ起こすなよ」

『んな、ここ数年落ち着いてるからね?扱いとイメージが酷すぎる』

「…そう言ってこの間の敵襲で大暴れしたのは誰だ」

『だって!敵が船長のことを色々言ったんだよ?ブチ切れない方がおかしい』


この間の敵襲で、何故か海賊が船長のことを色々馬鹿にしたりしたのだ。

あ、この間の船長と前線に出た戦闘の後の話ね?


『し、か、も!!愛しのベポも馬鹿にしてたし。許せないでしょーよ』

「だからって散々相手の心をえぐりまくった後に醜態を晒されて海に落とすとか…鬼だろ」


『船も壊してないし、食料だって残してあげたでしょー?優しいなァ、私』

「その船にあった記録指針も永久指針も全部、奴らの目の前で壊したくせしてよく言う」


『ま、あのまま進んだら海王類の餌になるのが末だろうけど、運が良ければ助かってるさ』



ペンギンは苦い笑いを浮かべながら、私の頭をポンポンと軽く叩いてきた。ペンギンは本当に兄の様だと思いつつ、にへへと笑う。


「まァ、○がしなくても俺か船長がやってたろうな」

『へ?ペンギンはともかく、船長は自分の悪口くらいじゃ熱くならないでしょ?』


「……(○の悪口に切れてた船長を知らないからか)」


『あ、ベポの悪口か!口ではそんな素振りないけれど、船長はベポに甘いもんねェ…私も甘くなる、可愛いは正義』

「…○にも甘いだろ」

『いやいやいやいやいや!!!何をおっしゃるんすかペンギン兄さんや!あんな顔を合わせればまずペチャパイと罵ってくる船長の何処が優しいの!?』


そう、挨拶がわりにまず私の貧相な胸(イッカクとか世の中の女性がデカすぎるんだ、私はペチャパイじゃない!)を馬鹿にすることから始まる。


昨日なんてさ、"おい、上陸するぞまな板"だよ!?

『膨らんでますぅ!ありますぅ!邪魔だからサラシで潰してるだけですぅ!ただ、イッカクよりちょこーっと小さいだけ!ほら、今潰してたってちょっと膨らんでますからね!!これ外したら凄いんですからね!』

「ほォ?なら今夜にでも証明してみろ」


ふん!と胸を張って道端でドヤ顔を披露していると、背後からゾクリと背筋の凍る気配と声色。そんでもって不穏すぎる言葉が聞こえた。



ぺ「はァ…」

『…人生終了のお知らせが聞こえましたわ』

ロ「今この場で終わらせてやろうか」


勢いよく振り返り、船長が何故かお一人で鬼哭に手をかけつつニヒルな笑みを浮かべていた。ゾクリと背筋の凍る感覚は間違いなかったわけだ。

ペンギンが深いため息をしつつ、パコンと私の後頭部を軽く叩いてきた。


ロ「随分と楽しそうな会話だな、俺も混ぜてもらおうか?」

『ふ、ふはは…いやァ?そんな会話してましたっけ?ほ、ほらペンギン買い出し行こ!迷わずゴーゴー!』


ペンギンの買い出しメモを奪い去り、そのまま走り出す。メモを見れば大方片付け終わっていてあとは少しの消耗品だけ。

よしよし、これなら1人でもこなせるな。このままペンギンを生贄に私は逃げ−−



「"ROOM"…"シャンブルズ"」


『へ?』


見ていた景色が一変して、先ほどの景色に逆戻り。私がいたであろう場所にはペンギンが立っていて、なおかつ私の手からメモが消えていた。


ぺ「あとは俺だけで充分だ、上陸楽しめよ○」

『え、へあ?』

ロ「だとよ、○」


今、私は大魔王の腕に捕まっております。そして唯一の生贄、もとい救世主は清々しいくらいの笑顔を浮かべて去りました。

まって、いかないで!!ペンギン、おいていかないでぇぇ!!



『ペンギィィイン!!裏切り者ォォオ!』

「さて、そのご自慢の胸を証明する為の買い物でもするか。なァ?○」

『盛りました、話めっちゃ盛りました!嘘ですごめんなさい。イッカクに比べて私はペチャパイです!だからご勘弁を!』



ニヒルな笑みを崩さず私の手首を掴み歩き出した船長に逆らえず(ここで逆らったらバラバラにされる…っ)素直に船長の後をついて歩く。

その様子を横目に見た後、何故か満足そうに笑った船長に首を傾げつつ私達が入ったのは敷居の高そうな服屋。しかも、女性物の。さらには店の半分がランジェリーショップ。


冷や汗が背筋に伝いました。もうね、嫌な予感しかしない。



ロ「こいつの下着から服まで全て見繕ってもらおうか」

「かしこまりました」

『ちょっ!船長、私豪遊するって言いましたけど服とかじゃないですからね、私は食べ歩きをしたいからですよ!?』

ロ「化けてみろ、期待してないけどな」


『イヤァァア!!』



サラシは問答無用で取り上げられ、あれよブラだあれよショーツだ…それこそ爪先から頭のてっぺんまで測ったり見たり揉まれたり。


「あら、意外とあるじゃないですか」

『ぎゃっ!?何故に揉むんですか!?』

「そうですね…これならこのサイズが合いますよ」


『なんだそのヒラヒラ!?レースのブラなんて要らないですからね!!』

ロ「ククッ」


試着室の向こうから船長の笑う声が聞こえてきた。あの人本当に楽しそうだなおい。くそう…悔しい!

店員さんが次々と服を持ってくる。どれもこれも女性らしいものばかり。

いや、あのね?もっと機能性重視して欲しいんですけども。こう見えても海賊だからね?私、いざとなったら刀振り回すからね?


『あの、こんな短いスカート履いて刀振り回したらパンツ見えるんですけど』

「それならば可愛らしいものを履いて万全にしましょう」

『そっち!?見られてもいい前程!?一応羞恥心持ってるんですけど!』


ちょっと待て、ちょっと待てェ!!なんだそのヒッラヒラのパンツはァ!ブラとお揃いで持ってくるな、要らんわ!


「お連れ様は何色がお好きですか」

『ド派手なピンク』

ロ「バラすぞ」

『あー!その白とか可愛いなァ!あ、黒もいいんじゃねェですかァ!』


くっそ、嫌がらせしてやろうと思ったのに。船長がピンク嫌いなの知ってるよ、だって私の部屋をシャチが一番初めに気を使って用意してくれた時ベッドシーツとかピンクで、それを無残に捨てたからね、あの人。

しばらく私寒い思いしたもんね、ホント。ムカつくからシャチの布団奪ったけど。


私も別に女の子らしいピンクが好きっ!っていうタイプじゃないし、てかそもそも別にピンク好きじゃないし良いけどね。

このパンツもヒラヒラしててお腹冷える未来しか見えない。

しかも散々着せ替え人形よろしくな状態で選び終える頃には私はぐったりしていた。広い試着室の端に置いてある椅子に座り込むくらいには疲れた。


今身につけているのは膝丈のフレアスカートと白いニット。うん、まァ…まだマシだね。さっきなんてタイトなミニスカートとか穿かされてたし。即拒否したけど。

せめてスパッツ履きたい。これで歩くとか恥ずかしい。タイツでも良いから履きたい。


その後そのまま何故か髪も化粧もされたあと(自分でできるって言っても店員さん無視だよ?酷すぎる)そのまま船長の前へと出された。


「如何でしょうか」

ロ「着てた服も全部船に送っておけ」

「かしこまりました」


『ちょっと、船長このままなんですか!?嫌ですよ!船員達に何を言われるか!』


船長は私の言葉なんて全くの無視で、私の愛刀を手に歩き出してしまった。

お会計とか済ませてないのに!と慌てて店員に聞けば、すでに船長が支払い済みらしい…何か変に手慣れててむず痒い。


『せ、船長!!』

「何だ」

『っ、待ってください。ヒール歩きにくくて追いつけません』


普段は歩きやすいスニーカー。もしくはヒールのないブーツで、少し高いパンプスはとても歩き慣れていないのだ。

そもそも持ってないしね、昔は持ってたけれど海上生活には不要で昨年に捨てたっきりだ。


「…行くぞ」

待ってくれたかと思えば私の右手を掴んで、そのまま少し緩めた歩幅のまま歩き出した船長に私の頭はもうキャパオーバーしそうだった。


違う、デートとかそんな洒落たものじゃない。そもそも恋人とかそんなものと無縁の海賊でしょ、私はこの人との部下だ。勘違いすらおこがましい。

その後、私の愛刀をメンテナンスに出して船長の希望の店数店を回ったあと船員達のいる酒屋にそのまま連れていかれました。



いやね、笑われたわ。本当に。

「ギャハハ!○かよ!?化けるもんだなァ!」

シ「おま、女だったのか!」

『失礼、めちゃくちゃ失礼だからね!?シャチ今度覚えてろよ!手合わせん時本気ではっ倒すから!』


べ「○可愛い!」

『ベポォ!ベポだけだよ、そんな風に言ってくれるのォ』


半泣きで船長の手からすり抜けた私はそのままベポにダイブした。もふん、とベポに包まれながら傷ついた心を癒す。


べ「(…あーあ、船長の機嫌を損ねるなよ○)」

『今日はもう本気で飲むからね!イッカク隣に来ないで!私の胸と比べられると悲しいから今日はダメ!』


イ「○、そんなこと言うなら普段から潰さなきゃ良いじゃない」

『戦闘中は邪魔なの、しかも中途半端だし。んな、おいこらそこ!笑うんじゃない!』


ギャハハと笑うシャチを指差しながら立ち上がると、どん!と誰かにぶつかる。

『っと、ごめんなさい』


振り返ると、そこには煌びやかなお姉さん達。男どもの雄叫びに近い歓喜の声で私の謝罪はかき消された。

そこからは簡単で、お姉さん達に混ざって飲む男どもを横目に私は気にせずバクバクと食事を済ませる。イッカクといえば、何故かお姉さんの1人と楽しく談笑。ある意味そのスキル羨ましいわ。

チラリと見れば、船長の両脇には胸も大きくて足もスラリと長くて、色気が溢れ出る一位二位を争うレベルのお姉さんがガッチリと席を陣取っていた。

あの人たちに比べたら、私なんて小娘だわ。ムカつくけどいいんだ、別に。

船長の恋人になりたいわけでもないし、そもそも私は船員として乗ったわけだし。


お酒の追加が欲しくて、カウンターへと移動する。お腹も膨れたから甘いものでも食べようとマスターにデザートを頼む。どうせ船長の奢りだから一番美味しいもの頼むもんね。


「隣、いいかい?」

ふと、知らない声が聞こえて振り返れば、爽やかなイケメンという印象を受ける男性がにこやかな表情で話しかけてきた。

あれ、ここ貸切じゃないの?とも思ったけれど気にせず"どーぞ"と返して、出されたパフェを頬張る。


「こんな酒場でパフェだなんて…可愛らしいんだね」

『あ、まぁ…どうも』

どうした、この人急になんか距離詰めてきたけれども。

その後も可愛いだの綺麗だの、歯の浮くようなセリフを惜しげもなく披露する彼に悪い気はしないものの…別にこれといって気分を良くするわけでもなく、ふとチラリと見た船長は相変わらずセクシーなお姉さん達にお酌されて飲んでた。

ほら、私だって一応?こうして誰かの目に止まってるんだぞ。って、この前の船長の言葉を引きずってる時点で私は意外と傷ついてたのかも。


『ま、らしくない格好なんて、するものじゃないなァ…』

「そう?今の君とても素敵だよ」

『はァ…どうも』


いつの間にか出されたお酒をぐびぐびと飲みまくり、気がついたら世界が回っていた。


「大丈夫かい」

『ん、まァ…』


名前も知らん人に肩を借りながら歩く夜道。履きなれないパンプスは気がついたら靴擦れを起こしていて、チリチリと痛む。

「とりあえず近くで休もう」

『えっと…はァ…何かすみません』


うう、酔いがまわるの早すぎない?と思いながらも隣と人はなんて優しいんでしょうねェ…だなんて楽観的な考えのまま歩く。


「おい」

不意に背後から聞きなれた声が聞こえ、私は足を止める。そのせいで隣の好青年も足を止めて振り返った。


「……うちのが世話になったな。返してもらおうか」

「彼女は僕と店を抜け出すことを提案してくれたんですよ」

『んん?んー…』


そんな事言ったっけな?だなんて考えつつ、不意にふらっ、とよろめいた体を隣の好青年が腰を抱き寄せ支えてくれる。あァ、こういうのを紳士って言うんだろうな。


ロ「○」

『ん、はぁい…』

ロ「お前は俺を選ぶ、違うか?」



船長の言うことはよくわからないけれど、とりあえず答えは一つだけ。

私は彼の手を卒なく離し、ここまで介抱してくれた彼にニコリと笑いかける。


『ん、ふは…愚問ですね…決まってます』


覚束ない足取りで私はすぐに船長の元へと駆け出す。最後の最後で足がもつれて、転びかけたところをいとも容易く抱きとめるだけにとどまらず、何故かそのまま抱き上げられた。


『んっと…ありがと。介抱してくれて……ふふ、じゃあねェ…』


好青年にお礼を言って笑いかけて、ヒラヒラと手を振ると、そのまま船長の首に腕を回した私はそのまま肩口に顔を埋めて静かに目を閉じた。

すでに気持ち悪さよりも心地よさが勝った私は静かに微睡む。その間、船長は勝ち誇った顔をして、好青年は苦虫を潰した顔をしていたのは私には到底知る由もないことだった。

Since:19/9/29


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