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『−−だってさ、酷くない!?』

「俺に言うな、直接本人に言えよ!」

『それが出来ないからシャチに言ってるんでしょうがァ!!』


「少なくとも、女らしくしろよなァ」


先ほどの船長の酷すぎる発言を甲板に来たシャチを捕まえて口を言えば、シャチはあっけらかんとそう言い放った。

冷たい、冷たすぎる。シャチのくせに!

目の前のキャスケット帽を素早く奪うと、私はそのまま被って走り去ってやった。ムカつくわ、ホントこの帽子海にでも捨ててやろうかな。


シ「てめっ、○!!」

『シャチが優しくないから強硬手段に出る。私に優しくしたまえ、さもなくばこのお帽子を海に捨てる』

シ「十分優しくしたろ!!ったく…夜のデザートやるから返せ」


『わぁい!』


甲板のヘリから飛び降りて、駆け足で駆け寄りシャチの帽子を素直に両の手で被せると、シャチは苦笑いをしながら指で私の額を弾いた。痛くはないけれど、少し馬鹿にされた気がした。

今日のデザートのプリンに免じて許してやろう。


シャチに子供舌だと笑われた。子供舌じゃなくて乙女舌です。

…自分で言ってて引いちゃお終いだよね。自分で"乙女はないわー"って思ってしまった。


『っ…と!に!か!く!手合わせ、手合わせして!』

「今日は俺が勝つぜ」

『なにおう?!私が勝つ!』


一応ペンギンに許可を取って互いにストレス発散と言わんばかりに手合わせをしました。

そして案の定、私の方が集中力を欠いていて見事に負けました。


シ「ほら、言わんこっちゃねェ…もっと集中してる時にしろよなァ?」

『へーい…っててて』


手合わせ中に避けようとして後頭部を酒樽にぶつけてしまったのが悪かったのか、ズキズキと痛む。

とりあえずシャチにお礼を言いつつ、食堂で氷袋を貰おうと船内へと歩き出した。



やばい、本当に頭痛い…うう、これはきっと打ち所が悪かったパターンだ。


「おい」

『うひゃ!?』


級に後ろから話しかけられ、驚いて変な情けなさすぎる声が出た。

慌てて振り向けば、そこには船長がいて、先ほど実は心の中で悪態をついていたので変に緊張したのは内緒だ。



「今日、珍しく鈍ってたろ」

『あー…見てました?はは、情けないです』


苦笑いをこぼし、見られていたのでもちろん頭を打ったこともバレ、見事に船長室へと連行された。

すれ違いざまにイッカクに苦笑いをされたのは言うまでもない。


『船長、私別に切ってませんよ』

「ほォ…?医者の俺よりも自信があるのか」

『嘘ですごめんなさい』


ビリ、と空気が震えた気がしてすぐに謝罪をしながら素直に船長室の椅子に座らせてもらいました。

こーんなに怖いのに、手つきは優しくて本当に反則だよね。参るわァ…くそう、私は患者で船長は先生だ。


「あんな蹴りを避けられないとは…いつもの鍛錬は遊びか?」


むむっ、かっちーん!

後ろから喉を鳴らす声が聞こえて、その後ぶつけた所を避けて頭を最後にクシャリと撫でたその手にイライラが少し萎んでしまった。

でも、日頃の努力を少しのミスで…しかも船長のせいでのミスなのに無下にされるのは許せない。

『…の、せいです』

「あァ?」

こっわ、船長のドスの聞いた声怖すぎる。で、でも負けないんだから!

意を決して振り返る、とそこにはいささか不機嫌そうな船長。先ほどの勢いがどんどん萎んでいく。


『だから、あの、そのぉ…集中力を欠いて…ですね』

「ボヤッとしてんのはいつもだろ」

『酷!?ですが、今日は船長の所為ですからね!?船長があんなこと言うからァ!』


ビシィッと指をさしてみれば、何故か数秒固まった船長(珍しいな)はその後、ニヤリと見ているこっちが寒気のするほど悪い笑みを口元に浮かべていた。

やばい、啖呵切ったの早まったかもしれない。

ええい、こうなったらやけだ!


『船長が、私に男が出来たら見ものだって言ったんですからね!』

「お前じゃ無理だ」

『んなっ!?そんなのわからないじゃないですかァ!』


「くくっ…なら、俺を惚れさせてみろ」



きょとん、と目が落ちそうなほど呆けてパチクリと何度か瞬きを繰り返す。

え、え?何この人今何を言った?


『…は、い?』

「他の奴を惚れさせたところで事実確認なんざできねェ、ならわかりやすく俺にすればいい話だ」


わけがわからん、どうしよう。この人の為なら命も差し出せるほど一応尊敬も敬愛もしているけれど…今すごく彼についていこうって気持ちが一瞬揺らいだわ。

もう口が閉じれなくて、あんぐりの状態のままで私は次いで口をパクパクと動かすことに成功した。

『……あ、の』


音にすることも成功して、あとはどう切り抜けるかだけが重要だった。

かんがえろ、かんがえるんだ。私。



『お断りします』

「挑む前から負けるのが目に見えてるからか」


『っ、ぬぁ!やけに自信たっぷりですねェ!?普段こんな色気もクソもない私が化けたら案外コロっといくんじゃねェですかァ?首洗って待っててくださいね!?』

「…ククッ…(単純だな)」

『何ですか!』

「さすが単細胞」


ぬァァ!!どうしてこんなに意地悪なんだ!?
選んだ海賊船がここだなんて…!そもそも乗り込んだ船が悪かったのだ…

いや、私にとっては最高の船だけれども、船員も船長も私には勿体無いくらいの人たちだけれども…っ!


にしたってひどくないかァ!?

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