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この船の、一番年下で、唯一の妹で、それでいて一番対所属で、隊員の中では一番読み書きが得意で……

一番、唯一と"1"のつくものを上げれば沢山ある。一応いい事の方が多いと思いたいけれど、悪い事だってある。



一番年下は、一番経験不足(どんなに早く始めても皆の年齢には勝てないから)だ。

唯一の妹は、ある意味一番非力(女という事が祟った結果)だ。

一番対所属は、一番面倒見のいいマルコ隊長の元へと配属された(若く、女で、とくれば自ずと面倒ごとが舞い込んで来てしまう)為だ。

読み書き、という面ではマルコ隊長の次に得意だ。ということは、二番になってしまう。良いことだけれど一番じゃ無い。



むしろ、マルコ隊長に一番心配も迷惑もかけていると自負している。

それに、一部のナースからはあまり良く思われていない。悪口側が少数派なのが唯一の救いだ。


戦いはそりゃ得意ってわけじゃ無い。せいぜい自分の身ともう一人くらいの身を守る程度。

派手に立ち回るのは苦手で、人の隙をついた方が得意で、だから誰かを守るというのが難しい。

そのせいもあって、上陸時のナース達の護衛役を任されたかなとは一度だって無い。そんなんだから、彼女達に"お荷物"と呼ばれるんだ。



今日の上陸も、偵察は任されるけれど誰かを守るということはさせてもらえない。

それって、何だか人の命を預かれるほどの実力がない人間だと言われている気がして遣る瀬無い。


だからと言って、ワガママ言うほど子供じゃない。子供ではいられない。


「○は、右に行け」

『はい』


それとなく歩き、偵察班の一人と別れてぐるりと島を見て回る。海軍の影もないし、革命軍らしき影もなさそうだ。

となれば、ここの上陸は安心して散策するほどにはできそうだ。

だなんて考えながら歩いていると、道行く人とぶつかってしまった。


ここでやり返したり、何もなかったかの様に歩くには相手のぶつかり方は強烈で、陸の普通の女性ならば…と尻餅をわざとついてみせた。

『きゃっ』

だなんて、か弱い声も追加しておいて。


顔を上げれば、明らか一般人ではない風貌の男3人組で、明らかに面倒ごとを運んで来ました!と言わんばかりの態度でニヤつき顔を隠さず披露している。


「ってェな、おい」

『す、すみませんでした…っ』


慌てて立ち上がる、頭を下げる、そくささと逃げ−−る事だけはさせてもらえないらしい。

がっつりと掴まれたその腕はギリリ、と悲鳴をあげる。けれど、まだこれくらいなら振り払えそうだと考えながら、顔を歪ませて謝罪をする。


「ぶつかっておいて、謝るだけかよ」

「こちとら、怪我してんだぞ?」

「おい、なんとか言えよ」


こんな道の真ん中で繰り広げているのに、皆一様に関わりたくない、と顔を素知らぬ顔でそらして歩き去る。

これ、私が本当の一般の女だったら絶望していただろうなァ…と呑気に考えていると腕を引っ張られて歩き出される。


あまり良い目的地ではない事だけは確かで、面倒だけど、警戒を怠る事なくいつでも倒せる準備をする。

むしろ人気のないところまで連れて行ってくれた方が好都合だよ、と心の中でほくそ笑んで私は怯える演技で小さな抵抗を示す。



ゲラゲラと笑う下衆で下品な男達と辿り着いた場所は…なんともまァ、お決まりといえばお決まりの人気も途切れ薄暗い路地。


ここいらで良いか、と考えて隠していた武器に手を触れさせるよりも早く男達は空に溶け込む様な青く揺らめく炎を纏った影に地面に伏せられて、意識を手放していた。



『…っ、へ?』

「っ、おい無事か!?」


目の前の彼は、彼らしくない程に慌てていて、私は思わず呆けてしまう。

男達はとっくに意識もなく一人なんて鼻血が出て白目向いている始末。


『マルコ、隊長…どうしてこちらへ…?』

呆けていると、彼は深く深くため息ひとつこぼして、私の頭を軽く撫でた後頬を摘んで来た。



「他の偵察班からお前がまだ戻ってねェと報告があった。んで、探してみりゃァこんな薄暗い場所に連れ去られてる…自分の状況わかってねェのかよい」

怒っている様子の彼に肩をすぼめながら、一つ謝罪。人気のない場所で倒そうと思っていた、そう答えれば、マルコ隊長はまた一つため息をこぼした。


『すみません、ご迷惑をおかけして…』

「迷惑じゃねェ。ただ、心配なだけだい…頼むから俺の目の届く範囲にいてくれよい」


それは、物理的な意味で無理だと思うけれど、それを馬鹿正直に伝えるほど私は空気の読めない人間ではないし、そもそもそう思うくらい私が情けないということだ。

そればかりは本当に申し訳ないので、素直にもう一度謝る。



『気をつけます』

「…わかってねェない。まァ、今日は許す」

『えっと…今日は、ですか。今後は本当に気をつけなくちゃ』


「おいこら」


ふざけて笑えば、マルコ隊長ももう怒っていないみたいで、軽く額を叩かれただけで済んだ。


その後、そういえば変装していたのだったと思い出して私は眼鏡も帽子も取り払っていつもの私へと戻る。

それを何故かマルコ隊長は満足そうに見てきているのにまた頭を傾げつつ、さっさと人通りの多い場所へと戻った。


『あ、もう偵察班が戻っているということは本格的に上陸ですか?』

「もう買い出しの班も出始めてる。うちは明日が船番だい」

『今日はお休みですよね?よし、買い出ししなくちゃ』


久々の上陸だ。必需品は多いに越したことなくて、何なら私は応急処置の医療品補修がしたいのだ。

マルコ隊長は何故か何も言わず私の後をついてくる。そんなに私がやらかさないか心配なのだろうか?

偵察も終わったから存分に海賊として警戒して歩けるのに、心配性だ。


『マルコ隊長…私、ドラッグストアに行きたいんですが…?』

「ん、あァ…よい」


『?』


どことなく歯切れの悪いマルコ隊長に疑問符を浮かべつつも、店に入ると彼も後をついてきていて、そこでマルコ隊長も用があったのかと納得した。


特に気にせず、私は目についた薬やら包帯やらをカゴに入れていく。普通は個人ではこんなに買わないんだろうけれど、さ。

…ほら、ちょっとの怪我だったら自分でした方が何かと楽だしね。


あまり医務室にお世話にはなりたくなくて、風邪気味の時も腹痛の時も、よほどのものでなければ市販の薬で済ませるし、怪我だって小さな物なら自分で治せる。

お、と言うことは私は自分の応急処置に関しては一番ではなかろうか。


ぼーっと考えながら、あとは…あァ、と思い出して私は薄く小さな箱を何のためらいもなく買い物カゴに放り込んだ。


「っ、お前…それ」

あっ…マルコ隊長が背後にいたの忘れてた。


『…見ちゃいました、か?』

「……んなもん、いらねェだろい」


急に目つきが鋭くなる隊長に怯えつつも弁明をと口を開きたい、のに怖くて開けない。

これまた女性受けしそうなパッケージにはミリ数が書かれていて、それでいてハートとか描いてあって…あ、ハイ。避妊具ってやつです。


『いえ、そのっ…えーっと』

「おい、何処のどいつだ」


『えっ?どいつって…その、言わなきゃ、ダメ…ですか』

「言えねェのかよい」


ここお店なのに、と考えながら私は口籠るとマルコ隊長は何の躊躇いもなくその箱をカゴから取り上げて戻そうとする。

ダメだと慌てて隊長のその箱を持っている手首を握って抵抗する。


その私の行動にさらにイラついたのか、盛大に一つ舌打ちをして睨んでくる。

でも、負けない。私だってそれを買わなきゃいけないんだ。


「そいつを庇うのか」

『庇う、って言うよりも…その、マルコ隊長にはご迷惑をかけ、てません、し…っ』

「……○」



鋭い睨みが降り注いで、もうどうすれば言わなくて済むのかとか、内緒にしたいのにとか、そんなこと全部吹き飛ばして私は隊長を見つめ返した。


『ナタリアですよ』

「…あ?」

『それ、ナースのナタリアが買ってきてって言ったんです』


「そんな嘘…は言わねェよない、お前は」

『彼女、イイヒトがいるんですって。内緒にしてくださいよ?私この前美味しいお菓子もらったので、そのお返しに内緒で買ってきてあげるって言ったんです』


「……そうかい」


何故か私の手を掴まれ、避妊具は器用に買い物カゴに戻されていて、そのままその買い物カゴを取られた。

会計を済ませていると、若い男の店員が最後に残された避妊具の箱を手にしながらチラリと私とマルコ隊長を見やる。

違うからね、勘違いしないで。確かになんかマルコ隊長、私の手を掴んだままだし、しかも私の会計支払おうとしてるし(流石に阻止したけれど)。


居た堪れなくて視線を泳がせながら待つ。ご丁寧にその箱は中身の見えないようにと小さな紙袋に入れられた上で他のものと同じ袋へと収納。


荷物を持ってくれようとしたのも全力で拒否をして、けれど奪われてしまって、恥ずかしいけれど素直にお礼を言うことにした。

好意を無下にできるほど馬鹿ではないし、それにそうしてくれる、そうされることに嬉しくないわけがなかった。


「これを船に置いたら、少し付き合えよい」

『はい!』

「即答の二つ返事だない」

『もちろん!マルコ隊長のお役に立てるのでしたら、荷物持ちだろうがお財布だろうがどんと来いです!まァ…マルコ隊長がそんなことするとは思えませんけれども』


「はァ……よい」

苦笑いを浮かべたマルコ隊長に首を傾げながら、いつの間にか離れたその手首に胸の中で小さく"少し、残念"と呟いた。

Since:19/9/11


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