カッツェの耳にKissをして | ナノ
情報屋カッツェ、以後ご贔屓に


さて、物語はいつも−むかしむかし、あるところに−と始まる。それに習って私の物語も語らうとしよう。


むかしむかし、あるところに幸せな恋人に子供が生まれました。

家族となり、子供が5つを迎えるまでそれはそれは素敵な家族でした。

しかし、夫が不慮の事故で亡くなり、妻は子供を育てるために昼夜働き詰めに。それが祟り妻は過労で間も無く亡くなってしまいました。

残された子供は悲しいことに他の身内もいない、さらには寂れた小さな島の小さな村だったそこが生まれの場所。その子を助けてくれる者は誰一人として現れませんでした。

貧しく、その日の食事もままならない生活を送っていた少女はある日森で実っていた少々風変わりな果実を見つけ、それを躊躇いもなく口にしました。

身の毛もよだつその不味さに気を失い、気がつけば自分が猫になっているではありませんか。


彼女が口にしたのは、1つ億ベリー越えはくだらない−悪魔の実−ネコネコの実だったのでした。


彼女が今後どう生き抜いていくかだが……すまない、客が来たようだ。この話はまた今度にしよう。




「レットン組の内部情報はどうなった」

『あァ、それなら手に入った。15万ベリー』


「ッチ、確かな情報なんだろうな」

『要らないなら構わない』


ジャラ、と重たそうな小袋が差し出されそれを受け取り中身を確認し、四つに折り込まれた紙を手渡す。

カサリと乾いた音が鳴り、男は内容を見るとニヤリと笑った。


男か女かもわからぬ深く広いフードを被った人物に、紙を受け取った男は口を開く。


「流石だな、情報屋カッツェ」

『またご贔屓に』


その人物は路地からサッと抜け出し深くフードを被り直し、人の多い道へと繰り出る。喧騒に紛れ、静かに足を消して歩き出す姿はさながら影の様だ。



人混みは嫌いだが、人を撒くにはちょうど良い。しかも今は夕刻。溶け込むようにそっと歩き去り、後ろについて来ようとした男達を容易く撒く。

マフィアは、海賊と違いやり易い。海軍に目をつけられたらたまらない腑抜け達の集まりとでも言おう。そんなそれらに負けるような鍛錬を積んで来た覚えなどないのだ。


しかし、ここでも流石に情報を売りすぎた。そろそろ次の島に移るべきだと判断早く、今夜出航する商業船の船長に上物の酒を賄賂に乗船許可をもらうと次の島へと旅立った。



次は春島にさらに近づくらしく、麗らかな気候に情報屋カッツェと呼ばれた少女は心に平穏が訪れていた。


これから起こる事など、この時の私は知る由もなく、想像だにしていなかった。


−−−−−−−−


3日で島に着き、商業船の船長には駄賃代わりに前の島の商業における今後の傾向を教えることにした。


さて、彼女が降り立った場所はなかなかの栄えた島だ。

人で溢れるその街は奥の繁華街に大きな店々が並び、手前には露店が所狭しと並んでいる。

遊郭街手前あたりが、良いだろう。独りでに考えついたフィオは露店で食料調達を済ませ、自身の得物を鍛冶屋にメンテナンスに出すと街の中を観光がてら回ることにした。


すれ違う人々は笑顔を携え買い物袋を手に宿泊施設揃う場所へと向かっている。もう夕刻だ、夕飯を済ませるために、ひっそりとした佇まいの飲み屋に入る事にした。

カランコロンと控えめなベルが来客を知らせ、マスターと一人のウェイターが此方を見てきた。

マスターはフードを被る私に怪訝そうにするでもなく"いらっしゃい"と告げてカウンターに視線を戻す。ウェイターは"お好きな席へどうぞ"と言ったっきりさっさと自分の仕事に戻る。

過干渉な店は嫌いだが、ここはなかなか良いのではないかと感じた。


『…とりあえず、パスタ二人前で』

「は、はい。かしこまりました」


ウェイターが驚いていたが、これでも夕飯は少なくしているつもりだ。

出されたミートソースパスタはとても肉々しく香ばしい。一口食べて気に入り、早々に食べ終えると勘定を置いて、"素晴らしい腕だ。ご馳走様"と素直に感想を述べて店を出た。

宿も早々に安い場所を取ると、外はすっかり夜になっていた。

トレードマークの猫の尻尾を思わせるファーアイテムを腰からぶら下げ、遊郭街より手前に静かに座る。

しばらくして、どこから聞きつけたかわからないが男二人が此方へと歩み寄ってきた。



「……情報屋カッツェだな」

『如何にも』

「親方、こりゃあたりだ!」


隣の若造は嬉しそうに声を張り、隣の年配の男に話しかけた。彼女が怪訝そうにフードの中で眉を顰め、声がデカイと注意する前に年配の男が若造を軽くはたき黙らせた。


「手前ェは黙っとれ。情報屋、ここの街に来てどれくらいだ」

『さァ、6時間ってとこだ』

「……ここの遊郭街を仕切る男の首が取りてェ。ジルヴァという男の行動を調べてもらえねェか」

『…また物騒だな。男の写真があれば調べよう』



フィオの前に男が差し出した写真には、如何にも汚い金で肥えましたと言わんばかりの恰幅の男だった。



この目の前の男が写真の男に何の恨みがあるか知ったことでないが…調べるとするか。

『承知した。期限はあるか』

「いや、ねェ。確実に仕留めてェから細かく調べてくれ」


『承知した。取り敢えず3日後に此処に来てくれ』

前払いとして10万ベリーが手渡される。余程成功させたいらしいその男に素直に金を受け取り、夜の闇へと消えて行った。


遊郭街を歩けば、娼婦たちが所狭しと手を振り色気と香水を振りまき腰をくねらせ歩いている。

どこも娼婦達は同じように煌びやかに飾り、溜まっている男達の性欲を吐き出させる為に働く。

別に彼女達に偏見を持っているわけではない。特に海賊ならば海に出る期間も長く、溜まるものは溜まる。特定の女を作るのが難しい海賊達にとっては唯一の捌け口とも言えよう。

私には到底無理だがな。あんな女性らしさなど持てるわけでもないし、鳥籠の中に居座れるほど我慢強くもない。


「おにいーさん、私を買わない?」

『…悪いが、そっちの趣味はない』


「…あら、男娼がお好み?」

『そう意味じゃない。性欲に興味がないという意味だ』


頭の悪そうな女性はパスだ。もっと話を対等にできる者がいい。

「つまんなぁーい」

『悪いな、つまらなくて』


腕を絡ませて来た女をさっさと振り払うと、もう少し奥へと歩みを進めた。



「あ、おにーさぁん!私を買って?」

「お、いいねぇ!」

「何寝ぼけたこと言ってんだよい、買うために此処にいるんじゃねェだろい」

「んだよ、けち臭ェ」



−−−−−−−−


少し進むと、遊郭街はさらに高級感を漂わせてくる。立つ女性も品のある者達ばかり。

さて、ここいらでいいか。そう考え声をかけられるのを待つと、一人の女性が此方へと歩いて来た。

「こんなところに迷い込むなんて、余程方向音痴さんかしら?」


ふわりと優しく笑うその女性は、周りにバレないようフィオに対し小さな声で話しかけてくる。

フィオはそれに気がつくと少し口端を持ち上げ、心の中でビンゴ…と呟いた。


『今晩、如何かな』

「あら、嬉しいお誘いね。私こんなタイプは初めてで上手くできるか心配だわ」

『何、気負いしなくていい。場所は…そうだな、遊郭街の外にある宿でもいいか?』

「スイートかしら?」

『残念、やっすい宿だ。しかし極上の酒はあるぞ』

その言葉に女性はクスリと笑い腕を絡ませて来た。残念ながら私も彼女も同じくらいの背丈なのでなんとも格好のつかない様子だが、女性はしな垂れて微笑む姿はどう見ても娼婦を買った姿にしか見えない。

さすがと言うべきか、その演技力はもはや女優モノだろう。


遊郭街の明かりを背中に向け、安い宿へと歩いて行った。
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