冷たさを帯びた風が四季の髪をそっと撫でていく。
急に寒くなってきたなぁ、と高く澄み渡った秋の空を見上げ、しみじみ思う。
「三悧くん、大丈夫…じゃなさそうだね」
買い出しを済ませて店を出た時からずっと無言のままの三悧を見る。その様子はどこか不機嫌そうで、マフラーで口元を覆っていた。
寒がりの彼にはこのくらいの気温でもたまらなく寒いんだろうな、と苦笑する。
「こういう時寒いーとか連呼しないね、三悧くんは」
「口にしたところでますます寒くなるだけ」
その切り返しが冷たい、なんて思いながら四季はふとある名案が浮かぶ。
そして左手を三悧に差し出した。
「? どうしたの?」
「手ぇ繋ごっか!」
「…は?」
にこにこと笑う四季に三悧は怪訝そうに尋ね返す。
「寒いんでしょ?私の手あったかいし、ちょっとはマシになるよ、きっと」
その言葉に三悧は四季の手、顔、そして自分の手を見つめた。
「…別にいいよ」
ぽつりと遠慮するようにそう答えた。
四季は一瞬首を傾げたが、すぐに思い当たる。
三悧は寒がりなのに、低体温。つまり自分自身が冷たいわけである。
自分に触れるということはその冷たさを誰かに与えてしまうということ。
「自分の手が冷たいの気にしてる?」
「……」
無言は肯定ということだ。
全く、と四季は呆れながらため息を吐く。
「そんなこと気にする必要なし!」
「わ、ちょっと!」
半ば無理矢理三悧の右手を掴んで握る。ひんやりとした指先を手のひらに感じた。
得意げに笑えばそれ以上反論が来ることはなかった。
「さて、この状況周りからはどう見えるかなー」
「少なくとも恋人には見えない」
「だよねー。姉弟とか?」
「あるいは親子」
「それは嫌だ」
たわいのない話をしながら帰り道を歩く。
先ほど感じた指先の冷たさは大分なくなっていた。
「…マシになった?」
「…まぁね」
無愛想にそう答えた三悧の少しだけ見えた口元は微かに弧を描いていて。
その様子に四季は小さく笑った。