「『相手の好きなところを五つ言えばこの部屋から出られます』…?」


状況が飲み込めないままソラは目の前の紙に書かれた文字を読み上げた。
その横で同じく文字を追っていたレンは小さくため息を吐く。

二人は今、小さな白い空間に閉じ込められている。
何もない無機質な部屋だ。
気付いたらこの部屋に放り込まれていた、といった状況だ。


「……誰の仕業だ、これ」
「レンでさえ気づかないなんて相当すごい人だよね」
「…とりあえず、出る方法他にないか探すか」
「うん」

怪しんでいるのか、それとも恥ずかしいのか、後者の方だったソラはその提案に迷わず頷いた。

そうして二人で手分けして部屋を探索して十数分。


「何もない…」


がっくりと肩を落としながらソラは床に座り込む。
白い部屋は家具や窓、通気口といったものが何一つない。扉もつなぎ目がどこか分からない。
ただ一つ、壁に先ほど読んだ紙が貼られているだけだ。


「どうやって出ればいいのー…」
「そうだな…」


嘆くソラを横目にレンは思案を巡らす。
抜け道になりそうなところがどこにもない妙な部屋だった。
改めて貼られた紙に書かれた文字を読む。
正直、これを知ってどうするのか意味がよく分からなかった。

が、

こうなったら物は試しか、とレンはソラの方を向いて口を開く。


「レン…?」
「……見てて飽きないとこ」


ぴこん、と気の抜けた音がレンの呟いた言葉に反応するように部屋に響いた。


「……え?」


あまりにも唐突でソラは一瞬レンが何を言ったのか分からず、ぽかんとレンを見た。
直後に、自分のことを言われたのだと気付く。


「…いけそうだな」
「あの、レン…?一体何を…?」


まさか、と愕然とした表情で立ち上がり名前を呼べば、何事もないような顔を返される。


「これが一番手っ取り早いかと思って」
「はい!?」


平然と言い放たれたその言葉の意味は紙に書かれた行動に従うということだ。
ソラは慌てた。言うのはともかく、言われる心の準備が全く出来ていない。
そんなソラを気にすることなく、レンは再び口を開く。


「素直なとこ」
「ちょ、…!」

ぴこん

「前向きで一生懸命なとこ」
「あの…!!」

ぴこん

「料理上手なとこ」
「待っ…!」

ぴこん

「笑顔」
「最後やけに簡潔…!!」

ぴこん


五つめの音が鳴り終える頃にはソラの顔は耳まで赤く染まっていた。


「分かりやすいほどに照れてるな」
「いやむしろなんで!こういう時は潔いのレン…!!」
「…相手がソラだから?」
「え、…」

さらりとすごいこと言ってないかこの人は。

今度は完全に固まったソラを見てレンは肩を竦める。


「…でも出るにはソラも答えなきゃいけないか…どうする?答えるのに時間かかるかもしれないけど…」
「! いや、かからない…すぐ言えるよ!」


我に返ったソラは真っ赤な顔のままレンを見る。
こうなったらいっそレンも照れてくれたらいいと思った。


「冷静なとこ、物知りなとこ、何でも出来るとこ、頭がいいとこ、頼りになるとこ!」


一息で言い切った言葉の数々に、ぴこんぴこんと連続で音が鳴る。
その頃には顔の火照りも治まってきた。

照れたりしてないかと、レンの顔を見ればそんなことは全くなかった。
どちらかと言うと少し驚いているように見える。


「なんで驚いてるの?」
「いや、そんなすぐに答えられるんだなと…」
「え?うん、もちろん」


言われるのはともかく言うこと自体は悩まないし抵抗もないよ、と言えばどこか曖昧な表情を返された。

とその時、がちゃんと何かが開く音が部屋に響き、白い壁の一部が開かれた。
その向こうに通路と別の扉が見える。


「…開いたね」
「開いたな」

紙に書かれていたことは間違いではなかったらしい。
一度、不審な点はないか辺りを確認して通路に出てみる。
なんの変哲も無いただの通路だ。


「まぁ、行くか。ここに閉じ込めた奴が見つかればいいけど」
「あれ、結構怒ってる?」


そう言いつつ歩き出したレンの後ろをついて行く。
その背中を見ながら思い出した。


(…あ…)


まだある、好きなところ。
あそこまで言ったらついでだから言ってしまおうと何気なく口を開く。


「あと、レンの優しいとこが私は好きだよ」


その直後、レンの動きが不自然に止まった。
突然だったのでソラはレンの背中にぶつかる。


「わ!?…レ、レン…?」


どうしたのだろうと顔を上げるが、前にいるレンの表情は見えない。


「………それは反則だろ」
「…? 何が?」


ぽつりと呟かれた言葉の意味が分からずソラは首を傾げる。


「…なんでもない」
「そう?…あ、ちょっと、待ってよー!」


ため息とともにそれだけ言って再び歩き出したレンにソラは慌ててついていった。


二人が去った部屋からぴこん、と小さな音が鳴った。




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